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「あっ!ありました」
お祖父さんは横になったままで、どうしてテーブルの上が見えたのだろうと不思議に思いながらもテーブルを見るとハンカチが置いてあった。
「早く持って行ってやれ」
「はい」
ハンカチを手にして、ぱたぱたと廊下を走って戻ったけれど、すでに壱都さんの姿はなかった。
町子さんがあら、と顔を出した。
「まだ車にいらっしゃるかもしれないよ」
人に用事を言いつけたのに帰るってどうなのよと思いながら、慌てて外まで出て追いかけた。
「あの!」
「きたか」
まるで、私がハンカチを届けに追いかけてくるのをわかっていて、待っていたかのような口ぶりだった。
車に寄りかかり、胸の前に腕を組み、王子様というよりは王様のような態度。
しかも、さっきまでの爽やかな様子は皆無。
あなたは誰ですか?
「俺はこれから、海外支店に行って、しばらくは戻れない」
「そんなことを言ってましたね」
「君の婚約者として、選ばれたからには俺もそれなりの立場にならなければならない。俺が戻るまでに妻として相応しい教養を身に付けておくことだ」
「教養?婚約者?結婚!?」
なにその単語。
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