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お祖父さんがいるから、まだ私はこの家で他の人達からも優しくしてもらえている。
でも、お祖父さんがいなくなったら、頼れる人は誰もいない身だ。
「息子の壮貴は頼りにならん。まともな人間に育たなかった。すまない」
「お祖父さんが謝ることじゃないです」
「お前のような孫がいてくれてよかった。安心して妻のところへ逝ける」
「そんなこと言わないでください!」
「明日死ぬわけではないが、準備はしておきたい。お前に贅沢はさせてやれないが、それには理由があると思っていなさい」
「贅沢なんてしなくていいから、少しでも長生きしてくれたらそれでいいんです」
そうじゃなかったら、私のことを心配してくれる人が誰もいなくなってしまう。
泣き出した私の頭をお祖父さんは優しく撫でた。
「それでも、いつか終わりはくる。その時、お前を守ってくれる。あの男がな」
壱都さんが―――?
お祖父さんが選んだ私の婚約者。
それもひっそりと誰にも知られることのない相手。
いったいお祖父さんも壱都さんもなにを企んでいるのだろう。
私には教えてもらえなかった。
きっと私が二人の企みに気づくのはお祖父さんが亡くなった時なのだろう―――まだ泣くのは早いとお祖父さんは笑っていた。
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