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それもあるが、向こうからあまりに音沙汰がなさすぎて、こうやって存在をアピールしておかないと忘れられそうな気がしたからだ。
一度も彼女からメールも電話も来ない。
こんな扱いは初めてだった。
「壱都さん。なにかありましたか?焦った顔をして。早く朝食を食べないと食べそびれますよ。今日もスケジュールがつまっていますからね」
俺が苦い表情をし、パソコンとにらみあっていると秘書の樫村が現れた。
出張で南フランスの田舎町にきていた。
取引のあるワイナリーに招待されて、ワインの試飲に来ていた。
安価でおいしいワインを手に入れるためで旅行ではない。
仕事だ。
そう―――俺は忙しい。
海外支店で結果を出しつつ、井垣グループの上層部とも海外で接触し、井垣のほうにも俺という人間を知らしめてきた。
今後のためにだ。
俺は彼女との未来のために頑張っている。
その俺にこのメール?
なにが『陽春の頃』だ!!
「樫村!」
「はい」
こほんっと咳ばらいを一つして、何事もなかったかのように振る舞った。
「井垣の娘の留学日程を調べてくれ」
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