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突然俺が現れたら、驚くだろうな。
樫村は『またよからぬことを企んでいるのでは……』という目で俺を見ていた。
失礼な。
これは婚約者に会いたいという純粋な気持ちだ。
機嫌のいい俺を見て、樫村は言った。
「おとなげないことをしないでくださいよ」
すでに俺がろくでもないことをすると思っているらしい。
失礼な奴だ。
文句を言ってやろうかと思ったが、留学の日程を手に入れてくれたのだから、今は黙っておこう。
仕事で正直、疲れていたが、楽しみが出来たおかげで体が軽くなった気がした。
ついでにメールも返信しておくか―――『次はもっと気楽な文章でかまいませんよ』と送った。
さすがにあれは他人行儀すぎだろう……
「壱都さん。朝食を終えたら午前は井垣グループの海外支店長と会うことになっています」
「ああ、そうだったな。昨日選んだワインを試飲できるようにしてくれ」
「はい」
ホテル内のレストランには話を通してあり、料理を用意してもらってある。
ワインに合う料理を。
井垣グループの海外支店長を夫妻で招き、俺は昨日選んだワインを出す。
それが今日の仕事だ。
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