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下手をすれば、父は芙由江さんよりも私のことをどうでもいいと思っていても不思議ではなかった。
芙由江さんは私の顔を見ずに赤いマニキュアを塗った爪を見ながら言った。
私より爪のほうが大事だと言わんばかりに。
「わかってるならいいのよ。学費と生活費だけはめんどうをみてあげるわ」
「ありがとうございます」
お礼なんか言いたくなかったけれど、母と住んでいたアパートは引き払ってしまったし、他に行くあてもない。
まだ十七歳の私はあまりに無力すぎた。
「その代り、お祖父様のお世話をしてね。天涯孤独なあなたにとって、お祖父様は大事な血縁者でしょ?できるわよね?」
「はい」
「朱加里。私のことは沙耶香さんと呼んでね」
異母妹は私を使用人と同じだと認識したらしい。
そして、私がなぜ正妻や異母妹のいるこの家に引き取られた理由がわかった。
私に病気の祖父の世話をさせたかったのだと―――ようやく、気づいた。
「扱いにくい頑固者なのよ。病人のくせに家の権利も井垣の会社も手放さない強欲な年寄りで困ってるの」
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