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窓の外には本格的な日本庭園があり、池には高そうな鯉が泳いでいた。
「大旦那様。朱加里さんをお連れしました」
高級そうな襖の前で立ち止まった。
襖には竹林と梅の木が描かれ、小鳥が梅の花をついばんでいる。
金や銀の細工も見事だった。
この襖一枚で母が稼いでいた月給と同じかもしれない。
「入れ」
襖の向こうから、乾いた咳としゃがれた声がした。
「失礼します」
まるで、職員室に入るような気分でそっと入った。
部屋には車椅子と杖があり、ベッドでは上半身を起こしたお祖父さんが私の方をじっと見つめていた。
病人と言っていたけれど、身だしなみはきちんとしていて、立派な着物姿、白い髪もセットされていて背筋はしゃんとしている。
気むずかしい顔はしているものの、芙由江さんや紗耶香さんのように見下した目ではなかった。
「はじめまして。あの、朱加里です。孫の……」
孫と言ってよかったのだろうか。
気を悪くしないだろうかと思っていると、お祖父さんは感情のない抑揚のない声で私に言った。
「そうか。ここに来ても何も楽しいことはない。さっさと出て行った方が身のためだ」
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