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プロローグ
「うっ」
という小さな呻き声をあげ目の前の男は白濁を俺の口の中に出しはてた。
ごほごほとむせ、喉の奥に放たれたミルクを吐き出す。
ミルクの独特の味が苦手だ。どうしても好きにはなれない。
+1000円でごっくんサービスっていうのもあり、やらなきゃって思うのにいったん飲み込もうとしても毎回吐き出してしまう。
何でもやるって決めたのに、できない自分が歯がゆい。
ここはネオン煌めく夜の街。
店の名前は『牛乳屋さん』。
と言ってもお察しの通り普通の牛乳屋さんではない。
精の解放を求めてお客が訪れ、その手伝いをするお店なのだ。
この店は客のアレを手や口を使い精を吐き出させる事を目的とした風俗店で、所謂本番や客からのお触りは一切禁止にしている。
俺は別に男が好きってわけでもなく、お金の為にここで働いている。
辛く苦しかった大学受験を経てやっと大学生になったと思ったら父親が急死してしまった。
その上多額の借金まで残して…。
借金は父親の保険金でなんとか相殺できたがこれからも俺と母親は生きていかなくてはいけない。
母親もパートに出たりしてなんとか頑張っているが学費にまで回せるお金なんかなくて、折角入った大学だったけど辞めて働こうと思った。
勉強だったら落ち着いた後でいくらでもできる。そう思ったからだ。
だけど大学を辞めて働くと言ったら母親が泣いたんだ。
父親の葬儀の時でさえ気丈に振舞っていたのに。
俺はそれを見て決めた。
バイトでも何でもして大学を無事卒業していい就職先を探して、それからバンバン稼ぐ。
遠回りのようだけどそれが多分一番いい。
俺はそれから大学へ通いつつも時間が空けばバイトを入れ、肉体労働から頭脳労働と、とにかく割のいい仕事をこなしていった。
だけど、無理というものはそう長く続けられるものではなくて、削られる睡眠時間無くなっていく体力。
俺はとうとう街中で倒れてしまった。
地面に横たわり傍を行き交う人たちの靴、靴、靴。
俺、このまま死んじゃうのかな…。
母さん―――ごめん…。
ぼやけていく視界。ゆっくりと閉じられる瞼。
薄れていく意識の中、誰かの声を聞いた気がした。
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