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愛の儀式へ
それからは慌ただしかった。
そのまま二人で家に帰り母さんにモリアさんを紹介して、宇宙人である事や食事については流石に言えないので遠い国からやってきてバイト先で知り合って恋に落ちたって簡単に説明した。
最初は驚いていた母さんも俺が幸せなら、と許してくれた。
モリアさんの美しさに母さんはきゃーきゃーとまるで女学生のようにはしゃいだりもして、久しぶりに心から笑った。
モリアさんは牛乳屋さんで稼いだお金を殆ど貯金してあって、通帳を見せてもらったけど結構な金額だった。
俺を嫁にもらったのだから、と俺たちの生活費や学費やなんやかんや全部お金を出そうとするモリアさんに、奨学金だってあるし必要最低限は甘えて俺が就職したら少しずつ返していくという事で無理やり納得してもらった。
結婚したといっても俺はモリアさんにただ甘えるだけの存在にはなりたくないんだ。
それに何といってもお金の出所が牛乳屋さんだから、ちょっと胸中複雑だったりもするんですよ。
モリアさんはそんな俺の想いにも気づいてくれたのか、株をやってみたり事業を起こしてみたりと他の方法でお金を稼ぐ事を考えてくれて、三人で住む家なんかも探してくれる頼りになる旦那様です。
*****
そして俺たちは今、ホテルにいる。
キスはしたもののそれ以上の事はまだしていなかったのだ。
ああは言ったもののモリアさんなりに俺に考える猶予をくれていたのだろう。
まぁどれだけ時間おいたって答えは同じだけどね。
覚悟ならとっくに出来てる。
それに時間かけ過ぎちゃうと、他の人のなんか飲んでほしくないしモリアさんが空腹で死んじゃう。
という事でまだ大丈夫だと言うモリアさんを無理やり引っ張ってホテルへ来たのだ。
シャワーを浴びバスローブ姿でベッドに並んで座り見つめ合う。
最初から俺はモリアさんにどこか惹かれていた。
美しい容姿だけじゃなく、何か魂がこの人だって囁いたんだ。
あの時の警鐘はこうなる事を予感して?
でも、今更モリアさんから逃げるなんて選択肢は俺にはない。
仮にあの時こうなる未来が分かっていたとしても俺はモリアさんから離れる事はなかったと思う。
短い間に色々な事があったけど、俺は今幸せだよ。
「みかさ…本当に―――」
俺の大好きな人はこの期に及んでぐだぐだと言いそうになるから覚悟を決めろと唇に噛みついてやった。
「みかさ…っ」
いきなりの乱暴なキスにモリアさんの顔は真っ赤だ。
してやったりとにやりと笑う。
「じゃあ俺から一つだけ質問。ねぇ、これって『食事』?」
少しだけ心の片隅にあった不安。
口に出してみるとどれだけ自分が不安に思っていたのか、手が震え気づかされる。
モリアさんはそんな俺の頭を一撫でして真剣な顔で言った。
「どれでもいい『食事』じゃないよ。もうこれは僕にとってみかさとしかしたくない『愛の儀式』なんだ」
モリアさんの言葉に不安が消えて、幸せが広がっていく。
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