辞表

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事務所のドアが開いた。12月にしては暖かい日だが、暖房の入っている部屋から暖かい空気が逃げて、外から冷たい空気が入ってくる。事務所内には独身アラフォー美人事務員2人と、頭頂部が禿げてきた為、丸刈りにした工場長が居る。 工場長は(おもむろ)にドアの方を見た。 作業着のチャックを少し開き、中から黒のハイネックが見える。身長は高めで、細いながらも筋肉質。端正な顔立ちで、セットをしていない自然な短めの M 字バングの黒髪。入社して半年以上が経ち、新人とは呼ばれなくなった黒岩(くろいわ)だ。普段は白い八重歯が魅力的で、女性社員からも人気の高い黒岩だが、今は白い歯を見せず、神妙な面持ちで、工場長に近付いて来る。黒岩は何も言わずに工場長へ手渡す。 上手な字では無い。かといって、下手という訳でも無い。一言で言えば、味のある2文字だ。そして、黒岩は工場長に言った。 「お世話になりました」
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