40人が本棚に入れています
本棚に追加
スカウト(朝)
いよいよ次がアイドルグループのショーのようだ。望遠カメラを持ったオタク風の男性が待ち構えている。10人ぐらいは居るだろうか?
小学生ダンサーのショーが終わると母親層が席を立つ。そこへオタク達が押し寄せる。5人が席を確保して、3人が諦めて立ち見場所へ戻る。
「……! ……!」
「……! ……!」
オタクの2人が何かアイドルを応援するような掛け声を発した。何と言ったのかは聞き取れない。オタクファン独特の掛け声と甲高い早口でリズムにのせて発するので、素人には何と言ったのか分からないが、そんな事はお構い無しのようだ。そこにアイドルグループが登場した。元気一杯、駆け足で登場。青を基調としたワンピースで可愛く揃えられているが、素人目にも安っぽく見える。ずっと使い回されている衣装なのだろう。
「ユリチャーン!」「アイチャーン!」「ミホチャーン!」「エリリーン!」「ナルルーン!」「ミズキー!」
「……! ……!」
オタクファンが名前を呼ぶ。聞き取れた。ただ、その後の何か応援する掛け声は、やはり聞き取れない。
ファンはほとんどがアラフォーのおじさんだ。そんなおじさんが自分の娘でもおかしくないぐらいの年齢のアイドルに可愛いだの綺麗だのと叫ぶ、異常な光景だ。いつもであれば、アイドルとそのファンばかりの会場でコンサートが行なわれて、特に問題なく盛り上がるのだろうが、今日のような、一般人の方が多い場所でのライヴはキツいものがある。普通であれば10代の女の子、その中には小学生もいるのに、40代のおじさんが握手を求めたりすると捕まってしまう。なので、普段は抑えているのだが、それを解放できる場所がここなのだろう。だから、ファン達は異常に盛り上がる。自分に子供が居ないから自分の子だという気持ちで応援しているのだろうか……。
「ユリチャーン! 結婚してー!」
……違った……。恋愛対象として見ているようだ。恐ろしい……。
アイドルグループのリーダーユリが挨拶と自己紹介をし、その後、1人1人自己紹介を振っていく。その度にオタクファンが奇声を発する。
リーダーが1曲目のタイトルを言うと、ファンが「待ってました~」的な事を言う。
(ファンの合いの手邪魔だな。何か滑ってる感じが……。まあ、今日は観客がファンだけじゃないから変な感じになってるのかな?)
1曲目が始まった。正は全員の顔を凝視する。
(う~ん、あまり好みの子はいないな。一般的に見ても美人はいない……。今回は外れか? ただ、リーダーの子はソコソコだな)
1曲目が終わり、リーダーのユリが話を振って、メンバーそれぞれに話を聞く。
そして、2曲目が始まった。
(リーダーのユリは話が上手いな。飛び抜けて美人でもないけど、まとめ役は必要かな。あの子をスカウトするか。しかし、リーダーを引き抜くとかどうなんだろう?)
全部で4曲のショーが終わり、握手会と CD 販売会が始まった。オタクファンの中に異質なスーツの男が並ぶ。
正は全員と握手をするが、リーダーのユリだけにメモを渡す。ユリは一瞬驚いたような素振りを見せたが、今までにも何度かファンから物を貰うような事はあったのだろう、メモをポケットにしまい、次のファンと握手する。
(よし、夜のイベントに行こう)
最初のコメントを投稿しよう!