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セパレート派
帰りに正は近くのカレー専門店に入った。
「いらっしゃいませ! 1名様ですか?!」
「はい」
「カウンター席へどうぞ!」
スポーツ新聞を手に取り、カウンターに座る。店員が水の入ったグラスを持ってきた。
「御注文がお決まりになりましたらベルを押してください」
「あ、注文良いですか?」
「どうぞ」
「カツカレーをカツとご飯とカレー別々で持ってきてもらえますか?」
「えっ?! カツの皿とご飯の皿とカレーの皿で分けるという事ですか?」
「そうです。出来ますか?」
「かしこまりました」
店員はキッチンに入った。内心は面倒くさい客だなと思っている事だろう。皿を洗う手間が3倍になる。そもそも何の意味があるのか分からない。
正はご飯が何かと交ざるのが嫌いだった。カレーはカレー、ご飯はご飯、カツはカツ、それぞれ別々に食べたいという変な癖がある。丼ものは基本的に駄目だ。例えば牛丼なんかは以ての外だ。牛肉が乗っているだけでもダメなのに汁多めだの、汁だくだの、ダクダクだの意味が分からないと主張する。口の中に入れば同じのような気がするが……。ただ、鍋の締めの雑炊は大歓迎だと言う……。
カツカレーを完食し、駅へ戻り、1時間半掛けて自宅最寄り駅に着いた。正はスマホを確認する。
(10時か……)
その時、電話が鳴った。ディスプレイには知らない番号が表示されている。
「もしもし、幸です」
「もしもし、幸さんですか? 昼のイベントでお会いしたユリです。サクライユリって言います」
「電話ありがとう。どう? ちょっと興味もってくれた?」
「はい! 一度お話を伺いたいと思いまして……」
「7日木曜の夜空いているかな?」
「ええっと……7日木曜の夜は……あ、空いています」
「メンバー全員で食事をしながら打ち合わせをしようと思ってるんだ。もちろん食事代と交通費は出すから」
正は最低でももう1人は連絡があると信じ、メンバー全員でと言った。
「分かりました。時間と場所は?」
「緑ヶ丘の『大安』って居酒屋午後7時からで考えてるんだけど……」
「分かりました。調べて行きます」
「じゃあ、宜しくね」
「はい! では失礼します」
電話を切ると直ぐにまた、電話が掛かってきた。こちらも登録されてない番号だ。
「もしもし、幸です」
「もしもし、今晩は。先程握手させていただいたミソラです」
「電話ありがとう。何ミソラちゃん?」
「アオイミソラです」
「で、どうかな? 興味ありそうかな?」
「はい! ぜひお話を伺いたいんですけど……」
「じゃあ、7日の夜は空いてる? メンバー全員で食事をしながら打ち合わせをしようと思ってるんだ。もちろん食事代と交通費は出すから」
「7日の夜ですか? ええっと……大丈夫です!」
「緑ヶ丘の『大安』って居酒屋7時からで考えてるんだけど……」
「緑ヶ丘なら祖父母の家が近いので分かると思います。『大安』って店に夜7時集合ですね」
「じゃあ宜しくね」
「はい! 宜しくお願いします。失礼します」
正は電話を切った。
(いやあ、順調だな。少し胡散臭い感じがあると思ったけど、問題無かったな)
正が家に着くと高級車が停まっていない。明は帰ったのだろう。鍵を開け、家の中に入る。
「お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
母親はスーツ姿の息子を見て、少し動揺したようにも見えた。今までニート生活を送っていた息子がスーツ……。色々と悪い考えが頭を巡っているのかもしれない。悪い仕事をしていないかという事だ。しかも、正の部屋には昨日の晩御飯の時には無かった外鍵がつけられているのだから。
正は3ヶ所のセロテープを確認し、2ヶ所の鍵を開けて部屋に入り鍵を閉めた。
(予想以上に上手くいっているな。残りの4回も上手くいけば良いな)
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