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顔合わせ
5月6日水曜日夜10時
「……じゃあ明日、緑ヶ丘の『大安』夜7時集合で」
「分かりました! 宜しくお願いします」
「宜しくね~」
スカウトは順調過ぎる程順調だった。正は6人に声を掛けたのだが、5人から返事があった。1人は不審に思ったのか、別の理由があるのかは分からないが、連絡は無い。5人全員が明日の食事会兼打ち合わせに参加できるみたいだ。居酒屋「大安」の予約も出来た。
(いやあ、順調だな。名前だけ整理しておこう)
サクライユリ
アオイミソラ
キンジョウヒカリ
シロタユキ
アカギリンゴ
(年齢と漢字は明日確認しよう。アイドル活動は今所属してるグループを卒業してからになるのかな? 多分みんなの方が詳しいから色々聞くことがあるな)
翌日
正は信用金庫に出掛ける。玄関のドアを開けると、また、高級車が停まっているのが目に入った。連日来る事なんて今までに無かったので珍しく感じた。正と同じで明も結婚はしていない。正と違うのは既に庭付きの1戸建てを所有しており、彼女は常に1人以上いるという事だ。
1流企業はゴールデンウィークが長い。なので毎年帰郷しているが、ほとんどが1泊2日だ。車の無い日があったので帰ったのだと正は思っていたが、帰って無かったのか、それとも2度目なのか……。家では部屋をほとんど出ないので、明の動向が分からない。まあ、正にとってはどうでも良い事だった。
信用金庫で通帳とカードを作り、100万円を入金した。大金を一気に預けると、怪しまれて警察を呼ばれるかも知れない。別に悪い事をした訳じゃないが、ややこしいのはお断りという事だろう。色んな銀行や信用金庫の支店に、毎日100万円ずつ入金する事にした。
午後6時
正はスーツに着替え、ペンとメモを持ち、部屋を出て、3ヶ所にセロテープを貼り、鍵を2ヶ所閉めて家を出た。
電車に乗り40分。駅から徒歩2分の場所に居酒屋「大安」がある。正は皆が電車で帰りやすいようにと、都会でも田舎でもない、駅から近い居酒屋を選んだが、そもそもアイドルがそんなに酒を飲むとも思えず、ましてや未成年が居るかも知れない。店の選択を間違えたかなとも感じていた。ただ、「大安」の店内はオシャレな内装で、少し値段が高めではあったが、サラダやスイーツの種類が多く、若い女性に人気があった。
10分前になり、正は店入口のベンチに腰掛けた。イベント当日と同じ格好だから分かると思ったが、よく考えると相手は毎日100人以上握手している。気付かないか? と思っていると……。
「幸さ~ん!」
向こうから元気よく手を振ってくる。素なのかアイドル感を出しているのか分からないが、気付いてくれたようだ。正は手をあげて応えたが、逆に、正の方が誰だか覚えていない。6人しかスカウトしていないのだが……。
「今晩は。リンゴです。宜しくお願いします」
両手で握手してきた。アイドルっぽい。
「来てくれてありがとう。あと4人来るんだ。一緒のグループになるかもしれないから、仲良くね」
「り!」
正は「ん?」と思ったが、話の流れで何となく理解した。「り」は「了解」の略だ。
(危ない危ない……。おじさん扱いされるところだった)
元々、おじさん扱いされてるのに若作りする。おじさんあるあるだ。
直ぐに次の子が会釈をして近寄って来た。サクライユリだ。この子は最初のイベントの子なので覚えている。落ち着いた雰囲気でアイドル感は無い。
「今晩は」
「ユリちゃんだったよね? 今日は宜しく」
「宜しくお願いします」
「アカギリンゴです! 宜しくお願いします!」
「サクライユリです。宜しくね」
全員早めに着いていたのか、残りの3人もまとめてやってきた。全員、挨拶を済ませた。
「取り敢えず入ろうか。自己紹介は中でしよう」
席に座り、適当に注文する。ビールは正とヒカリだけで他のメンバーはソフトドリンクだ。
「今日は皆集まってくれてありがとう。このメンバーでテッペンとるぞ~!」
「お~!」
「カンパーイ!」
「カンパーイ!」
正はビールを1口飲んで、グラスを置いた。
「皆、名前と年齢書いてもらって良いかな?」
正はメモとペンをユリに渡す。ユリから順番に名前と年齢を書いていく。
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