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酔っ払い
1時間後
話は盛り上がり、皆の仲も良くなってきたようだ。正と光は完全に出来上がっている。話は皆のバイトの話になった。林檎が話す。
「私、昔はファーストフードでバイトしてたんですぅ」
「鬱陶しい客も来たんじゃない?」
「そんなの一杯ありますよぅ。でも一応お客さんですしねぇ。いやいや、対応してましたぁ」
「大変だねぇ」
「でも、アイドルになると接客業は無理ですよねぇ~。だから、最近はもっぱらファンとの撮影会でお小遣い稼ぎです!」
「やっぱり撮影会で稼ぐのは基本だよね~」
「私は高校入学前ぐらいからネットにアイドル活動の動画をアップして、今はそれで生活出来てます」
「美空ちゃん凄いね。ところで、幸さんって今まで何の仕事してたんですか?」
「何もしてないよ。コンビニでバイトしてただけ」
「えっ?!」
百合の質問が、楽しく盛り上がっていた雰囲気を一変させた。
「正ちゃん何やってんの! ちゃんと働きなさい!」
「はい! すみません!」
光は酒が回っていて気にしていないが、他のメンバーは大丈夫か? という雰囲気だ。
「アイドル活動のお金はどうするんですか?」
百合は真顔で言った。
「大・丈・夫。お金は一杯あるから」
「10万円とかでは運営出来ないんですよ?!」
百合は真面目な話なのに、酔っ払った正の返事にカチンときたようだ。
「大・丈・夫。1億円あるから」
「冗談言わないでください!」
「嘘みたいなホントの話。はい! では、今日のお給料をお支払いしま~す」
正はパンと手を叩きながらそう言うと、財布から帯付きの札束(実際は95万円)を取り出し、帯を切った。それを見た百合はあまりの出来事に固まった。
「はい、百合さん」
そう言うと正は百合に2万円渡した。
「今日の日当と交通費です」
「……」
百合は現在の状況が飲み込めないようだ。ニートが100万円(実際は95万円)を財布から取り出し2万円を自分に惜し気もなく渡したのだから……。
「はい、光さん」
「あざーっす!」
光は酔いが回っていて、テンションが高いままだ。
「はい、林檎さん」
「ありがとうごさいま~す!」
林檎は常にアイドルだ。オフにならない。
「はい、美空さん」
「ありがとうごさいます」
「はい、雪さん」
「ありがとうごさいます」
美空も雪も困惑気味だが、会釈をしながら両手で受け取った。
「どうしてそんなにお金あるんですか?」
百合は信じられないといった表情で正に質問する。
「ああ、競馬で当たったんだよ」
「幸さん競馬上手なんだぁ~。凄~い!」
林檎は正の隣の席をキープしていたが、さらに体を密着させる。態度が露骨な林檎を見て、好きになれないタイプだなと感じた者もいるだろう。
「いや、競馬は下手だよ。ずっと負けてる」
「じゃあ、どうしてお金持ってるんですかぁ~」
「まぐれ当たり。いや、まぐれでもデカイのは当たった事無いな。間違えて買ったんだ」
「間違えて?」
百合が真剣な表情で聞き返した。これからのアイドル活動を正に任せて良いかの判断をしようと必死なのだろう。
「ああ、1番人気の馬を買うつもりだったんだけど、マークシートで塗り間違えて、隣の最下位人気の馬を買っちゃったんだ。そしたらその馬が突っ込んでくるというミラクル! このメンバーでもミラクルを起こすぞ~!」
「オー!」
酔っ払った光が乗ってくる。林檎が続けて質問する。
「それで1億円当たったんですかぁ~?」
「1億2千万円! イエーイ!」
「イエーイ!」
光と林檎はテンションがあがっているが、百合、美空、雪は少しひいている。正の話を信用しても良いのか、といったところなのだろう。
2時間後
百合は車を停車させ、正に聞く。
「幸さん! この辺りですか?」
「ん? ううん? あ、ここで大丈夫」
酔っ払って、少し眠っていた正は眠そうな目を擦りながら言った。林檎は正の腕を掴みながら言う。
「玄関まで送りますよぅ」
「……ありがとう」
林檎は正が倒れないよう腕を組み、一緒に歩く。
「あ! 幸って表札! ここですねぇ」
「そうそう、ありがとう」
「大丈夫ですかぁ? 部屋まで行けますかぁ?」
「大丈夫。じゃあ、また、今度ね」
「お休みなさいぃ」
「幸さんお疲れ様でした!」
百合は車の中から叫んだ。正は振り向いて笑顔で手を振った後、玄関のドアを開け、家の中に入った。正はドアを開け、靴を脱ぎ捨て、千鳥足気味に階段を上り、鍵を開けて入ろうとした。
ガチャン
(ん? ああ、もう一つあったな)
後付けの鍵を開け忘れている。何とか鍵を開け、ジャケットとズボンを脱ぎ捨てて倒れこむように寝た。
林檎は家がこっち方面なので正の付き添いだ。もう一人の酔っ払い、光の家は緑ヶ丘なので美空と雪が送り届け、2人は電車で帰るとの事だ。
「結構普通の家ですねぇ。1億以上持ってるって言うから豪邸なのかと思いましたよぅ」
林檎が百合に質問する。
「だって競馬のまぐれ当たりなんでしょ。親には渡してないのかな? アイドルプロデュースも遊び感覚っぽいし。でも、私達にとっては助かるわ。羽振りが良いからアイドル業に専念できそう」
「そうですねぇ。バイトしなくて済むかも」
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