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あの日、ユリアが私を待つと言った水面に丹色を映し夕陽は沈んでしまった。待ってはくれなかった。でも昇る朝日が照らす水面は美しく茜に染まる曇も空の色も映している。渡って疲れて羽を休めに帰ってくる水面はそこにある。東雲の違いなんて些細なことだ。
「湖畔にこんな橋あったっけ。」
「うん。野鳥公園に入れるんだ。やめろその表情。」
「ことりあそぶは鷹はなし、と。」
「だから言わなくていいって。ちなみにここ鷹いるし。たまの、ね、ユリアとの寄り道、んで、野鳥公園突っ切るとシェスタホールの裏口が近い、と。」
一緒に乗っけて行くよ、とわざわざ職場まで来た洋子の後押しでぎりぎり6月の末に8月の連休を申請し今日に至った。洋子の実家に寄り車を置いてバスを乗り継ぎわざとこのバス停で降りた。へぇ、ユリアとかぁ、飄とした洋子を見れずに、肯きで返す。でももうユリアは、と胸を締め付ける言葉は口に出せない。口にしたら泣いてしまう。感傷でわざと来たくせに、ユリアがいなくても湖畔があれば大丈夫だと思いたくて来たのに、全然ダメだ。
「ユリアは、ちょーっとデパートに買い物に行ってるんだ。」
飄とした洋子の声に哀咽に囚われた思考が止まる。
「、、あぁ。アンディか。」
「そ。」
“彼女は百貨店でお買い物中さ(だから今は居ないし、早々には帰ってこないよ)”
死なんてものはないのさ、と嘯くアンディウォーホル。人が死ぬのはいつだ?と問いかけたDr.ヒルククは自分で答えも言った。
「、、あんたら、買い出し行かせたら戻らなくて、あげく道に迷ったってさぁ。」
「あーあったね、なんだっけ、なんかの数か足りなくて、使命感燃えてチャリで隣町まで行ったやつ。アホみたいに疲れた。」
「待つ方の身になれっての。」
まだ沈まない夏日の落陽の中を並んで橋を渡っていく。シェスタホールの特徴的な段々屋根が向こうに見えている。
皆にロビーで会ったら、喫茶店に誘おう。今までのことも聞いて、またいつかじゃなく、今度の話をしよう。
貴女がいなくとも私は貴女と生きていける。
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