それでも貴女との日々なんだ

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フロントの観光地のチラシでふと思い出し、洋子を追ってティサロンに向かう。カウンター席の常連の男性に軽く会釈し、奥の明るい窓際席で微睡む猫のようにうとうとする洋子を見つける。野暮な紺色のジャケットが制服姿(ブレザー)を思わせ、背後の窓枠さえ教室のそれに見えた。近づく私に気づくと、どした?と洋子は目を細めた。 「美術館(凪の丘)行った?バスキアの聖廟展示してたよ。招待券あげる。私も終わりまでにもう一回行くつもり。」 「聖廟ってキースヘリングじゃないの?おおっ、こんなに?一緒に行くかい?」 「キースヘリングだったかな?その聖廟が来週明けまでの展示なんだよ。入れ替え前に行きたいけど合わせるのは難しいかな。うたも行きたいって言ってたんだ。誘ったら?」 もう一度見たいと思っていた。でもそれは駆け足での鑑賞だ。休憩中に抜けて行けたらいいなぁくらいだが、それに合わせて都合をつけさせるのはわがままだろう。 「そっか。」 「これ、チラシ。入れ替え後はジョーンズの国旗だね。、っ『はい。行きます』じゃ。」 待っていて、と言いたかった。 友人が来てるから少し抜けさせて、と言っておけばよかった。 インカムに返事し踵を返す。 どうしてこんなにも名残惜しいんだろ。 またね、さよなら、またいつか。 それでいいじゃないか。 洋子から『みやのおかげで歌子に会えた、誘ってよかったよ。』とメッセージが届き、うたからはバスキアの絵はがきが届いた。裏面にもデザインの施されたハガキの隅に『みや!絶対会おうね!うた』と丸い角の無い文字で勢いよく書かれていた。 ユリアは演劇部全員にタイムカプセルメッセージを送っていたんだろう。 あの年だけ、私達の年だけ関東大会の切符を手にできなかった。来春の全国大会での引退を待たず、高2の夏の地区大会(シェスタホール)で引退だった。祝勝会は帰りにシェスタホールの喫茶店に連れてって、と顧問(ゆみちゃん)に言ってたのにそんな空気にはならなくて、、ああ、だから集合か。喫茶店に行くぞって指揮するつもりだね、ユリア。
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