夜更けのドアの向こうには

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 翌朝。自分の家のベッドで目が覚めた。  のろのろと身支度を整えて、コートを羽織った。  ポケットに三千円はなかった。もらわなかったのか、タクシーに払ったのか。  僕は、飲み過ぎたのか。どこからか、夢を見ていたのか。  社に着くと、いつもは早い加納先輩がまだ来ていなかった。  落ち着かない気分になった。  まさか。  スマホを取り出して、連絡をとろうとした僕の目に、よれたスーツの先輩がオフィスに駆け込んでくるのが見えた。 「加納さん……!」  いつもと変わらず、バッグを机の下にしまって、ふう、と息をついた。「やっべえ、ギリ。寝過ごした」 「生きてた……」僕の力が抜けたような声に、先輩が怪訝そうにこちらを見た。 「生きてた?」 「あ、いや」  パソコンを立ち上げながら、大きくあくびした先輩をちらっと横目で見た。それから、聞いた。慎重に、聞いた。 「昨日、僕、先輩の家、行きました……よね?」 「あー、ごめんな。巻き込んじゃって」 「……いつも、あんな感じ、ですか」 「いや、昨日はかなり」 「……鬼、みたいに、ですか」 「そう、鬼だよな、ああなると。先に家の中に入った俺とかみさんが、ばーっと喧嘩になったじゃん。かみさん、しばらくお前の存在に気付いてなくて。ほんと、悪かった。あ、飲む?」  先輩が僕の机にBOSSを置いた。 「ありがとう、ございます。で、あの……殺され……そうになりませんでした?」  先輩は冗談でしょ、というように軽く笑った。「さすがに、ないって。手も出さないよ、お互い」 「……どうやって、収まったんでしたっけ」 「収まってない。今朝も険悪。おかげで起こしてくれなくて」 「……僕、どうやって帰りましたっけ」 「最後、かみさんがお前に何か玄関口で喋って、お前、『じゃあ失礼します』って帰ったでしょ。タクシー代、足りた?」  どこかで何かがからまって、今はほどけている。
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