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二人は同じ家に住んでいるわけではないが、広いくくりで言うなら香川県に住んでいる。 箱に書かれている宛先は愛媛になるため隣の県だ。
「重いんだけど・・・」
「そうだな。 二人分を合わせたら50キロ以上はありそうだ」
「どうやって行く? よくよく考えたらこんなの無理だよ・・・」
既に送馬は音を上げていた。 二人は車の免許を持っていないため、公共交通機関に頼るしかない。 といってもバスにこれだけの荷物を積むとなると迷惑極まりないし、タクシーを出す程のお金もない。
となると方法は一つしかなかった。
「電車を乗り継いでいくしかないな」
「・・・分かった」
送馬はあまり重たい荷物を持ち運びたくないようだが、送馬のところへ来た荷物を運ぶわけで本当は兄の孝行こそ愚痴の一つも零したいところ。
それでも渋々と荷物を抱えたのを見たため何も言わないことにした。 最寄り駅へは歩いていかねばならず、目立つのは当然だ。
「・・・周りからの視線が痛い・・・」
電車の中で大きな箱を抱えているせいか周りからの視線が集まってしまう。 普段より人が多いのは休みだからだろう。
「どうして今日までずっと溜めておいたんだよ。 ゴールデンウィーク中だぞ?」
「ゴールデンウィークになるまで、僕の時間が空かなかったんだよ。 高校一年生はやることがたくさんあるんだから」
高校と言われると孝行は何も言うことができない。 おそらく苦労しているだろうことは分かっている。
「高校生活の方はどうだ? 慣れたか?」
「・・・まぁまぁ」
そう言うが送馬の顔はどこか浮かなかった。
「送馬なら、今の学校だと国語の成績は余裕で一位が取れるだろ」
「かもしれないね。 本当はもっと上の高校を目指したかったけど」
二人で話しているとあっという間に電車は愛媛へと着いた。 隣の県であるが、二人は愛媛に来たことがほとんどない。
「降りる駅はここでよかったの?」
「おそらくな。 ここが最寄り駅だと思う」
大きな駅を経由し、乗り換えてやってきた。 どちらかと言えば田舎町で、のどかで空気がいい。 目的は箱の運搬であるが、ゴールデンウィークの旅行として悪くないのではないかと孝行は思っていた。
普段から県を跨ぐなんてことが少ないため、見たことのない景色が広がるだけでテンションが上がるというものだ。
―――帰りに何か美味しいものでも食べられたらいいな。
駅に常設されている地図を見ながら目的地を探す。 当然と言えば当然だが、大雑把に記されているためよく分からない。 帰りに寄れそうな食事処も載っていなかった。
「これ以上の場所は分からないな。 人に聞いて回ろう。 もう少しの辛抱だ、頑張ってくれ」
適当に道行く人に尋ねかける。 何となくの場所は分かっているため向かいながらだ。
「あの、すみません。 この住所どこだか分かりますか?」
送馬の家で住所と簡単な地図を写したメモを見せる。
「あー、この住所ならあの通りを入ったところだよ」
「ッ、ありがとうございます!」
案外近くまで来ていたようだ。 二人は荷物の重みから解放されたい一心でそこへと向かう。
「駅から近くて助かったな」
「うん。 一体誰宛だったのか、ようやく分かる時が来たね!」
だがここからもまた問題だ。 住宅街まで来たものの細かい番地までは分からない。
「仕方ない、どこかの家にチャイムを鳴らして聞いてみるか」
適当に一番近い家のチャイムを鳴らすと一人の女性が出てきた。 いきなりの来訪に少々驚いた様子だったが、優しそうな人だったため安堵した。
「突然ですみません。 ここの住所ってどこの家だか分かりますか?」
「・・・え?」
メモを見せると女性は不思議そうな顔をする。
「どうしました?」
「・・・いえ、数字で言うならここから五軒目だけど・・・」
そう言って向かい側の斜め方向にある場所を指差す。
「見ての通り、家はないわよ」
「え!?」
「住所、間違えているんじゃないの?」
「いや、そんなはずは・・・」
念のため箱に書かれている住所も直接見せた。 女性は首を捻る。
「おかしいわね・・・。 この住所は存在しないはずなんだけど」
―――一体どういうことだ?
孝行と送馬は目的地周辺まで辿り着き、突然切れた手がかりに困り果ててしまった。
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