不思議な荷物

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二人は丁寧にお礼をして訪ねた家を後にした。 子供二人ということもあり心配していた様子だったが、大丈夫だと笑顔を見せると家の中へと戻っていった。 とはいえ困っているのは事実。  本当はもう少し話を聞いてもよかったのだが、その人がただ何か勘違いしているということもある。 「・・・どういうこと?」 「他の家にも行って聞いてみよう」 ということで向かいの家から四軒目。 目的地であろう場所の隣に立っている家の前まで歩く。 「おそらくこの家がこの宛先の隣だから、何か有力な情報を得られたらいいけど・・・」 チャイムを鳴らすと今度は年老いた男性が出てきた。 先程と同様に荷物に書かれた住所を見せてみる。 「あの、この住所って隣の家だと思うんですけど・・・?」 男性はゆっくりと顔を隣へ向けた。 そこに行き止まりの壁しかないのは兄弟にも分かっていることだ。 「・・・はっはっは。 見ての通り隣に家などないぞ。 幽霊屋敷にでも宛てて送ったのかな?」 ―――本当にどういうことだ? ―――どうして存在しない宛先の荷物が送馬の家に届く? 「まぁ、大方ウチの住所と書き違えたんだろう。 どれ、荷物を・・・」 「あぁー! いえ、おかしなことを尋ねてすみませんでした! ありがとうございました!!」 二人は荷物を受け取ろうとする男性を振り切って離れた。 正直不可解な荷物のため受け取ってくれるなら受け取ってほしいが、本来の受け取り主が困ることになるのはマズい。  それにわざわざ隣の県まで来て荷物を放り出したくはなかった。 送馬が息を切らしながら言った。 「・・・その荷物、どうする?」 「・・・念のため、交番にも行って確認してこようか」 「交番? あぁ、うん、そうだね」 何故か少し驚いた顔をした送馬だが、素直に交番まで付いてきてくれた。 それが孝行には妙に気にかかった。 送られ主は送馬のため、もしかしたら荷物の中身に心当たりがあるのかもしれない。  孝行は持っている箱に軽く耳を近付けてみる。 とりあえず動いているといったことはない。 歩いているうちに交番を見つけそこへ向かう。 だが送馬が中に入るのを嫌がったため、孝行一人だけだ。 「あの、すみません。 この住所ってどこだか分かりますか? 近所の人に聞いても分からないって言われて・・・」 警察は暇をしていたのか快く応じてくれ、住所をパソコンに打ち込み調べ始めた。  「確かにその住所は存在しないね。 宛先を間違えているということはないかい?」 「隣の家の人にも聞いたのでそれはないと思います」 「そう。 一応確認のために、荷物の中身を見てもいいかな?」 「え? ・・・あ、大丈夫です! ありがとうございました!」 本当は警察立会いの下中身の確認をした方がいいのかもしれなかった。 だが先程の弟の様子が再度頭を過り、その提案を断っていた。 孝行は中身を推測する材料が一切ない。  この荷物がただ間違って送られてきていただけなら構わないが、もし弟にとって中身を見られてはいけないものだったらマズい。  警察も少々不審に思ったようではあったが、それ以上追及する気はなかったのかまた交番の奥へと引っ込んでいった。 何となく胸を撫で下ろし、弟のもとへと戻る。 「警察の人は何だって?」 「やっぱりこの住所は存在しないって」 「そっか・・・。 じゃあ、住所の書き間違え?」 「書き間違えだったら、送馬の家に届くこと自体がおかしいだろ・・・」 「あぁ、そっか・・・」 今自分で言ったことだが、住所がまるで違う弟の家に届けられたことが最も不可解な点だ。 そう思った瞬間、弟がやけに荷物を大事そうに抱えているような気がした。 ―――思えば荷物の確認はまだしていないんだっけ。 ―――俺たちのものじゃないし、見るのは流石に控えていたけど・・・。 ―――このままだと埒が明かないからな。 中に何かヒントがあるのかもしれないと思い、覚悟を決めて箱を開けることを決める。 人目の少なそうな場所へ移動し、しっかり封されたガムテープに爪を立てた。 「ちょッ! 兄さん、何をしてんのさ!?」 「中身を確認する」 「駄目だって! これは人のものでしょ!? 勝手に開けると怒られるから!」 「送馬は見なくていい」 「いや、そうじゃなくて・・・ッ!」 送馬に背を向け一人で中身を確認した。  「ッ」 だが見た瞬間即座に蓋を閉じる。 大量のビニール袋で包まれてはいたが、見間違えるはずがない。 嘔吐しそうになりそうなのを必死で堪え再度チラリと確認する。 人の首。  明らかに人形とは思えないそれがそこには納まっている。 ―――は? ―――一体誰の? ―――顔はよく分からないけど、きっと同い年くらいの少年・・・。 ―――どうしてこんなものが、送馬の家に? テンパっている孝行をよそに背後から呑気な声が聞こえてくる。 開ける前までは弟の方が緊張していたのに、開けた今となっては自分の方が緊張していた。 「兄さん、どうしたのー?」 「いや・・・」 「中には何が入っていたの?」 「・・・送馬。 今すぐにこの荷物を全て持って、家に帰ろう」 中身が何か知らないならどうとでもなったのかもしれない。 だが知ってしまってはもう遅かった。 先程の件で警察には疑われているだろうし、人の死体を老人に押し付けることもできない。  罪悪感と恐怖が孝行の心をがんじがらめにしている。 だから、弟には中を絶対に見せるわけにはいかなかった。 「えぇ!? 嫌だよ、折角ここまで重たい荷物を運んだのに! 帰るならここに置いて帰ろうよ。 本当の受取人が見つけてくれるかもよ? それに家に持って帰ったら、僕の家がまた狭くなる」 荷物は全て持ってきたわけではないのだ。 まだ送馬の家にかなりの数が残っている。  今見たのが首だけだったため、考えてしまうのは他の箱にはパーツごとに分けられ入れられているのではないかということだ。 「それは我慢しろ! いつも置き配達なんだよな?」 「うん。 いつも荷物は夕方に届くかな?」 「今日の夕方に来る配達員を問い詰めるぞ! どうして宛先の違う送馬の家に荷物を届けるのか、直接聞いてやる!!」 「・・・うん、分かった」 珍しく感情的になっている孝行に送馬は驚いていた。 隣の県まで出向き得られたことは少なかったが、それどころではなくなり二人は一度帰ることにする。  行きは荷物の重さに嫌気を感じていたが、帰りは内容の重さに嫌気を感じていた。
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