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不思議な荷物
孝行(タカユキ)は折角のゴールデンウィーク初日だというのに途方に暮れていた。 元々はキャンプをしに行こうと約束していたのだが、仲のいい先輩が葬式に出なければならなくなってしまい断念した。
小さい頃から面倒見てくれた祖母であるなら仕方がない。
―――俺も行った方がいいのかな・・・。
―――だけど、面識ないしなぁ。
もし自分が逆の立場なら、後輩に泣いているところを見られたくないと思う。 そうなれば、やはりゴールデンウィークの予定を立て直す必要があるのだ。
キャンプに持っていこうと思っていた、肉の塊を盛大にフライパンに乗せジュワリと脂が滲み出したところで電話がかかってきた。
先輩かと思ったが弟で、かかってくること自体が珍しいため火を止め電話に出た。
「もしもし? 急にどうした?」
『あ、兄さん? 手伝ってほしいことがあるんだけど』
「手伝ってほしいこと? 何?」
『話は後で。 とりあえず、僕の家に来てくれない?』
元々暇になっていたのだから、時間はある。 名残惜しそうに肉を冷蔵庫に戻すと準備して家を出た。 弟の送馬(ソウマ)は高校生だがアパートで独り暮らしをしている。
―――本当は遠い高校へ入るつもりはなかったんだよな。
―――第一志望の高校を落とされて、可哀想に・・・。
第一志望に受かっていれば独り暮らしをする距離の高校に行くはずではなかった。 学力は十二分に足りていたため、可哀想に思っている。 それに少し気になることもあった。
電車で一時間、少し緑が多くなる郊外に三階建てのアパートがある。 合鍵を受け取っていたため、インターホンを鳴らすとドアを開けた。 その瞬間、部屋の中の有様に驚いてしまう。
「うわッ! こんなに溜まっていたのか」
送馬の部屋には大量の箱が置かれていた。 どれも宅配された段ボールのような見た目で、大きさもほとんど同じだ。
「もしかして、俺を呼んだのってこの箱の件?」
「そうだよ」
「てっきり作文を手伝ってほしいのかと・・・」
「作文は既に間に合ってる。 というより、兄さんより僕の方が国語は得意だから」
「作文の雑用でもやらされるのかと思ったんだよ」
送馬の足元に散らかっている箱へと視線を落とした。
「この荷物、届き初めてから一ヶ月になるのか?」
「うん。 この謎の荷物は今のところ毎日届いてる」
「差出人は?」
「相変わらず書いていないよ」
孝行は箱を持ち上げると、周囲を確認する。 まるで何も入っていないのではないかと思う程軽いが、いたって普通の宅配物だ。
「宛先は?」
「それも変わらない。 この家の住所じゃないのに、荷物は全てここへ届く」
「本当に妙だな・・・」
「前に住んでいたここの人宛なのかな? 僕には心当たりがないし」
「んー・・・。 郵便局に『宛先が違います』って言って返しても、結局はまたここに届くんだよな?」
孝行が気になっていたのはこの謎の箱のことだ。 ただここまで大量になっているとは思ってもみなかった。 一つでも不思議だというのに、これだけあるとそれはもう恐怖を感じる程。
だがいずれは持ち主が何らかのアクションを起こすだろうと思っていた。 だが、全くないとするなら明らかに異常だ。
「全て空?」
箱を振っても何も音がないのは、以前見た時と変わらない。 だが弟は首を横に振っていた。
「最近はそうでもないんだ。 最初は空だと思うけど、最近は中身のあるものが届く」
「中身があるなら悪戯ではないよな」
「中身があっても悪戯かもしれないよ」
孝行がいくつか箱を持ち上げてみると確かにそこそこ重いものもあるようだった。 ただ外観は空のモノと全く変わらない。
「相変わらず中身は見ていないのか?」
「流石に僕じゃない人宛のものだからね。 勝手に見るのは申し訳なくて」
「んー。 それで、俺にどうしろと?」
「空の時は放置してもまだよかった。 でも最近は何か入っているものが届くから、流石に放っておけないなと思って」
「まぁ、そりゃあそうだよな。 これだけ大量になると・・・」
「だから、この箱に書いてある住所に直接届けたいんだ」
そう言って送馬は箱に書いてある住所に指を差した。 当然だが宛先は全て同じ場所を差している。
「まぁ、隣の県だしな。 向かうのは楽か」
「うん。 でもこの荷物、重過ぎて一人だと運べないと思ったからさ」
確かに中身が入っている荷物は重かった。 それを複数一気に運ぶとなると、一人で運ぶのはどう考えても無理だ。
「そのために俺を呼んだんだな」
「そういうこと。 だから兄さん、手伝ってくれない?」
「いいよ。 今無茶苦茶暇だったから、断る理由なんてないし」
「ありがとう!」
といっても、部屋にある箱は多過ぎて二人がかりでも到底運ぶのは無理だ。 先輩がいれば車を出してもらえるのかもしれないが、二人にはそれができない。
ということで、中身の入っているものからいくつか選び紐でまとめると、それを持っていくことにした。
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