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某ホテルの廊下。
血相を変えた男女、乱れた服装と頭の男が大きな足音を立てながら早歩き、その後ろを整った容姿の女が追いかける。
二人は今日知り合った程度の関係であり、それぞれが抱く苛立ちを噛み締めながら、漏れ出した分を怒号として飛ばし合っていた。
今はとある男を追いかけながら、自分達が成すべきことを説得し合っていた、それぞれの立場からの意見を感情混じりにぶつけ合っていた。
「淀川さん!!聞いているんですか!!まずは避難させないと!!」
「知るか!!そんなものカナデちゃんがやりゃいい!!今は一刻も早く犯人を炙りださなきゃならん!!」
「被害者をこれ以上出させないために避難が必要なんです!!私一人では限界があります!!だから!!」
「俺は探偵だ!!探偵は既に起きたことを解明する仕事だ!!事件を未然に防ぐのはお前ら警察の仕事だろう!!」
「そんなこだわりが、事件の究明が人の命より大切なんですか!?見損ないましたよ淀川さん!!」
「そんじょそこらの事件じゃない!!相手はシリアルキラーだ!!ただの殺人事件じゃない!!」
「だからこそ協力すべきって言ってるじゃないですか!!この分からず屋!!変態盗撮男!!今すぐにでも手錠をかけてやっても…」
しかし前を行く男、淀川守という探偵が急停止すると、後ろを追いかける白崎奏という警察官は、彼の手に顔を掴まれて止められる。
言葉を遮られた白崎は怪訝な顔をしつつも、それが「喋るな」という意味があることも理解している、怒りを理性で抑えると口を閉ざす。
そして女性並みの腕力でその手をどけると、分かりやすく壁に張り付く淀川の後ろに隠れて様子を伺った、緊張する二人は小声で会話を続けた。
「いたぞ容疑者…平山元気だ…」
「変態その1ですね…」
「…女が一人で水着になる方が悪いだろ」
「だってプールがあったら泳ぎたくなるじゃないですか変態その2さん…」
「しかし野郎…やけに挙動不審だな。まさかもう次の事件を起こすつもりなのか…?」
「…なら今二人がかりで捕まえますか」
「いやどのみちこの距離じゃ逃げられる…どうみても逃げ慣れてそうな野郎だからな…」
二人が追っている容疑者とは平山元気という人物であり、どうみても暴力団か何かに属していそうな、派手な頭に態度の大きい歩き方をする男である。
彼は死体の第一発見者でもあるが、殺害現場から逃走した唯一の人物でもあり、その一部始終を運悪くこの二人に見られてしまって今に至る。
そもそも何故、淀川と白崎が共に行動しているかという点についても、全てこの平山という男が事の発端となっているのだが、それは今となってはどうでもいいことだ。
着替えを盗撮していた淀川を捕まえようとした矢先、思わぬタイミングで殺人事件が起こってしまった、淀川曰くそれが『シリアルキラー』の仕業というのだから。
そして次の瞬間、落ち着きなく辺りを警戒しながら歩く平山がこちらに気が付くと、彼は一目散に走り去っていく、二人は急展開する事態に迅速な対応を迫られた。
「あっ!逃げた!」
「バレたか!あんだけ大きな声で話してりゃ当然だが!」
「淀川さんはそのまま追いかけて!私は下の階から回り込みます!」
「…クソ!早え!さすがチンピラだな平山ァ!」
「……てめえはあん時の…!」
「…いつもこうやって逃げてんのか!?一丁前に手出すくせによ!!」
「……うるせえな探偵気取りが…!」
足の早い平山は瞬く間に淀川に差をつけると、何かの紙を見ながら曲がり角を曲がりに曲がり、やがて階段に辿り着くと上層階へと上がっていく。
体力の乏しい淀川は階段に辿り着くなり諦めてしまい、しばらくして白崎が階段を駆け上がってくると、汗を拭いながら疲れ切った淀川の顔を見つめた。
「…まさか上に逃げたんですか?」
「ああ…多分四階だ…そんなに上には行ってない…」
「…一応フロントにはエレベーターを見張っておくよう伝えましたよ」
「野郎…何か紙みたいなの持ってやがった…」
「紙?見取り図でしょうか…でもそれなら尚更…」
「さあ…もしかして抜け道でもあんのかもな…どのみち確かめるしかねえ…」
「…真っ向勝負になるかもしれませんよ」
「いっそそうなってくれた方がありがたいもんだ…なんたってこっちには現職警察官様がいるからな…!」
「………」
合流した二人は一呼吸置くと平山を追って四階へと上がる、そしてその先で今回の事件が『シリアルキラー』によるものだと、身を持って確信することになるのだ。
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