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ホテル四階のとある部屋。
その部屋は不自然にドアが開いており、警戒しながら四階へと上がった二人が異変に気が付くまで、そう長く時間はかからなかった。
オートロック式のドアは既に壊れているようで、それは物理的にこじ開けられたというよりは、内部の電子システムが故障している雰囲気だった。
当然、二人は迷うことなく部屋の中へと飛び込む、もちろん平山の罠という可能性を考慮しなかった訳ではない、ただこれ以上待つわけにはいかなかっただけだ。
そしてその先で二人は開きっぱなしになった大窓を発見し、淀川は急いでベランダに出ると外を見下ろした、そこにはびしょ濡れになった平山がこちらを振り返っていた。
「マジかあいつ…この高さから…!?」
「へっ…ついてこれっかよクソ探偵…!!」
ベランダの下をよく見れば下の階のベランダが近い距離で繋がっており、落ちれば死ぬということに目を瞑れば十分降りることのできるアスレチックである。
一階にはベランダがないことから、彼は思い切って二階からプールへと飛び込んだのだろう、だからびしょ濡れで二回の賭けに勝って自慢げにしていると思われる。
「…カナデちゃん!!マットレスを持ってきてくれ!!」
「え!?マットレス!?どうして!?」
「急げ!!奴が逃げる!!」
「あ…はい!!」
淀川は白崎にそう指示して、自分はベランダの柵を乗り越えて彼女の到着を待った、平山は何処かへと逃げ去っていき、事態は一刻も争う状態へと移り変わる。
しかしいつになっても白崎はマットレスを持ってくることはなく、痺れを切らした淀川は自分で取りに行こうと一旦部屋の中へと戻る、そこでは白崎が固まっていた。
「淀川さん…これ…」
「なんだ!?後にしろ!!」
「…二人目です…」
「今逃がすわけにはいかない!!」
「…二人目の犠牲者です…!!」
「!?」
無理もないだろう、彼女が見つめる視線の先、つまりベッドの上に二人目の死体が安らかに眠っていた、30代ほどのまだ若い女性が理不尽に奪われた姿がそこにあった。
死体を発見した際には不用意に動かしてはならない、そう教わっている白崎はマットレスだけを引き抜くことなどできない、警察官として動けなくなって当たり前だ。
マットレスが使えないと分かった淀川は、急いでベランダの方へと切り返すと平山が辿った軌跡と同じやり方で降りようとする、しかし外に出た瞬間に彼も動けなくなる。
当たり前だが平山の姿はもう何処にもない、それに淀川が同じ方法で成功する保障はない、更に言えばこの時点で淀川はとある疑問へと辿り着いてしまったのだ。
「淀川さん…」
「………」
淀川はベランダから再び室内へと戻ると、思い出したように仲間に通報する白崎の後ろで、何の権限も断りもなく女性が泊まっていた部屋の中を物色していた。
そしてゴミ箱近くにくしゃくしゃに丸まった一枚の紙を発見すると、それを躊躇いなく拾って広げて、中に書いてある文字を確認して驚愕のあまり目を見開く。
「午後2時…4階40E号室の女性が死ぬ…!?」
「…え?」
「…あいつが持っていたのはこの紙だったのか…!!」
そこに書いてあったのは今の事件の予言だった、絶対に犯人しか知りえない、犯人へと辿り着くための手がかりの一つだった。
「淀川さん…応援がもうすぐ来ます」
「ああ…丁度情報整理がしたかったところだ」
「その紙は?」
「くれてやる」
「これ!!」
「…その代わりお前にも協力してもらうぞ」
「淀川さんに?」
「シリアルキラーとかいうやつをとっ捕まえるまではな」
「…はい!!」
二人の犠牲者を出したこの『シリアルキラー』の事件を紐解く、そのために淀川守はこの静岡県の某ホテルへとやってきた、そしてここからが『連続殺人事件専門の探偵』としての始まりなのである。
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