message1 神様がくれた運命

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再びレストラン。 そこで淀川守は宿泊客と従業員相手に一人で講演会を開いており、ホワイトボードに事件の大まかな図を書き記しながら、目星をつけた客に対して実質的な尋問を行っていた。 彼が持っている宿泊名簿の写しにはそれぞれの「宿泊期間」が書かれており、つまり「誰と誰が一緒に来た」という情報が一目で分かる、よって彼の定めた狙いは的確だった。 宿泊客の「菊池健斗」「原田亜門」「坂井良子」「柏やちる」、この四人の男女は必ず何かを隠していると分かっていた、そしてそれが犯人を追いつめる鍵となるのである。 「まずは柏やちる。お前は一人目の犠牲者、伊倉総士のなんだ?」 「な、なにって?」 「そのままの意味で聞いている。連れであることは宿泊名簿で分かっている、答えなければ容疑者として疑うまでだ」 「そ、そんなごむたいな…」 「ちょっち待てよ探偵さん」 「原田亜門、お前には質問していない」 「俺と菊池と坂井は、死んだ千田凛の連れっちだ。ならそいつはつまりそういうことだろ?」 「わ、わたしは総士くんの…」 「そうか。なら何故そんなに冷静でいられる?」 「そ、それは…」 「お前ら千田の連れ三人もだ。まるでこうなることが分かってたかのような態度じゃないか」 「健斗、彼は何を聞いてるの?」 「しっ!良子は黙ってろって!」 「分かりやすく言おう……お前達にはどんな繋がりがあるんだ?」 「………!!」 淀川らしく乱暴に切り込むと、四人の男女は驚いたような表情をして黙り込む、その間も淀川は一人一人の表情の変化を逃さず、坂井良子という女が何かを考えていることに気が付いていた。 「……おい、わしのことはもういいのか」 「甲斐次郎…別にお前の容疑が晴れたわけではない、口を挟むな」 「むぅ……だが一番怪しいのは貴様ではないか淀川守……!」 「…なんだと?」 「さっき村田という男が死んだと刑事から聞いた、犠牲者は全て貴様が報告したのだろう?」 「正確には俺ではないがな」 「わしらは動けない、しかし貴様は自由だった、つまり貴様ならば殺人が可能ではないか!?」 「…面倒な男だ…」 お節介焼きの甲斐次郎が割り込んできても、適当に話を受け流しながら坂井良子が口を開くその時を待っていた、そして一人で納得してすっきりとした表情になると、何か言いたげにこちらに視線を向けた。 「ねえ、つまり繋がりがあったのは犠牲者ってことじゃない?」 「何を言っている坂井良子」 「何って貴方が聞いていることよ。隠れた繋がりが知りたいんでしょう?」 「だから良子!…俺達は別に知り合いでも何でもないんです…あっ、俺達三人は友達ですけど…」 「…全て千田っちが企画したお泊りツアーなんだ、だから俺らっちはこうなるかもしれんって思ってたっていうか…」 「あの子、上司にセクハラされて会社辞めさせられたあたりから、何かおかしかったのよね」 「千田凛が自殺するかもしれないと?」 「変な宗教にハマったり、危ない繁華街を一人でうろついて家にも帰らなかったり、急に怒り出したり」 「………」 「男ができたかと思えば誘拐されかけたり、くだらない事業を始めたかと思えば借金を作ったり、そのせいで家族に縁を切られたり」 「………」 「何度も自殺寸前のところで助けてあげたのよ。さすがにそれで落ち着いたかと思いきや、正直あきれたものよね」 「もういいだろ坂井っち…」 「すみません…良子はこういうやつなんです…」 「見ていれば分かる」 「すみません…」 「二回も謝らなくていいわよ」 坂井良子という人物の人格がどうであれ、これで千田凛が自殺だったことはほぼ確実である、そしてその事実は探偵の大きな力となり、闇に隠れた臆病な犯人を追いつめる最大の一手となるのだ。 「じゃ、じゃあ総士くんも…?」 「ああ、その可能性がある」 「よ、よかった……」 「…しかし、残念だが犯人は伊倉総士だ。そいつこそ最初の犠牲者にして集団自殺を遂行した…全ての元凶だ」
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