冷たいあの人

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 「私ね。アナタがまだ小さかった頃に、面白い夢を見てね。大人になったアナタがウエディングドレスの姿でパッと私の目の前に出てきたのよ。そんなアナタが『私をここまで育ててくれてありがとう。厳しかったお母さんのお陰で立派に育つことができました。本当に感謝しています』って私に言ってきてね。当時はアナタに厳しくしようとも思っていなかったから、それを聞いたら、私もドキッとしちゃって。その夢を見てから、厳しくしなきゃと思ってアナタと向き合ってきたんだけど......」  母は心配そうに話を続ける。「アナタは、こんな厳しい母親で良かったのかしら......」消えかかりそうなくらいに小さな声だったけれど、それは私の耳にしっかりと届いた。  母も母なりに、一人の人間として、私の母として、色々と悩んでいたのだ。あの時も、あの時も。母の厳しくて冷たい、毅然とした態度は、夢の中の未来の私がそうさせていたのだろう。それは、母という責任に押し潰されそうになった母の、最後の頼りだったのかもしれない。  私は、母の本当の気持ちを知れたことで、目の奥が少し熱くなった。  私は「そうねぇ......もう少し優しい方が良かったかしら」と母に冗談っぽく言う。母はそれに対して「そしたら、これからアナタに優しくできるように努力してみるわ」と言った。  その返事を聞いて、まるで昔の母と話しているような気分になった。多分、これからも母は母のまま変わらないんだろうなと思い、私は少し笑いそうになった。  私は「よろしく。また何かあったら電話掛けるからね」と言い、電話を切ろうとしたが、最後に母に聞きたいことがあるのを思い出した。  「そういえば、最近悩みとかない?」まだ親孝行を出来ていなかったので、私なりに母の助けになるようなことをしたいと考えていたのだ。  母は「悩み、そうねぇ」と少し考えた後「そういえば最近、手足が嫌に冷えてきてねぇ」と私に相談してくれた。  「りょーかい、じゃあ冷え性対策のグッズそっちに贈るので楽しみに待っててね」と言って、私は母との電話を切った。  私は早速、冷たいあの人に贈るプレゼントを買いに行く為、そそくさと外に出る準備をしてから、バタンと家を飛び出した。
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