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「将来の私のために厳しく冷たくしてくれてたのかな?」と、大人になった私は、なんとなく思う。
もしかしたら、ああいう母が母であったからこそ、こうやって親元を離れても、私は一人で何でも熟せているのかもしれない。母はシングルマザーなりに、私に世の中の厳しさと冷たさを教えてくれていたのかもしれない。今となっては、そう思う。
私は思い切って母に電話を掛ける。自分では平然としているつもりでも、心拍が徐々に早くなっているのが分かる。やはり緊張する。
四回ほどコールが鳴ってから、母の声が聞こえてきた。「ユミ、久し振りね」母の声は、心なしか以前よりも丸くなっているような気がした。
私は乾いた喉から「久し振り、お母さん」と声を捻り出した。自分でも驚く程にカスカスな声が出たので、母に「アナタ、風邪でも引いた?」と変な心配をさせてしまった。私は照れながら「声出すの失敗しちゃった」と誤魔化した。
そしてしばらく、私と母は、最近あった話や昔の思い出話に花を咲かせた。
「お母さんに電話する前、お弁当事件の話思い出しちゃった」と私が言うと「あぁ、あの時は大変だったわねぇ。アナタが家出した時、私どうしようって思ったわ」と母は懐かしむように応えた。
母は母で、あの時私が家出したことに心配していたようだ。何かしてなければ落ち着かないということで、料理メモを作り直していたらしい。
「お母さん心配してくれてたんだね」と私は皮肉っぽく言うと「当たり前じゃない、私はアナタのお母さんなんだから」と、ちょっと強めに言い返されてしまった。
それから私は、今日母に電話した目的でもある『結婚式の予定』についてを連絡した。すると母は「いよいよアナタのウエディング姿がもう一度見られるのね、楽しみだわ」となんとも奇妙な事を言い始めた。
「もう一度って。私まだウエディングドレス着たことないでしょ?」私は母がボケてしまったのではないかと心配した。そんな私の心配を他所に、母は言葉を続けた。
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