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自殺に追い込むつもりなんてもちろん無かった。でも、世間はそう思ってはくれない。特にその女優のファンだった人間は、SPARKの公式サイトに誹謗中傷の書き込みを繰り返し、当時ライターだった俺の個人情報をSNSで公開して責め立てた。【人殺し】と書かれた紙を事務所のポストに貼っていく輩まで現れた。それを見ても特に気にすることなく仕事をしていたが、その時一緒に取材をした後輩が精神を病んで仕事を辞めた。
不倫をしたことで熱が冷めて応援を止めるファンはもちろん多いが、愛する人がした行為なら仕方がないと、全て正当化して俺達に牙を剥くファンが多いのも事実だ。
人を不幸にする金で稼いで買った米でも、米は米の味しかしない。汚い仕事だと思われようとも、俺はこの世界で家族を養って行こうと決めていた。
「もう朝っすね。あっそうそう、ちょっと前にスマホが鳴っていましたよ」
内藤の声に目を開くと、外は既に明るくなっていた。どうやら、運転席を倒すと同時に寝てしまったらしい。割れるように痛む頭を数回振った俺は座席を戻してハンドルを握った。
「もっと早く起こしてくれても良かったのに……」
「いや、実は俺もちょっと前に起きたとこなんすよ。夜通し張るのってやっぱしんどいっすね」
内藤はそう言って後頭部を掻いた後、カメラを弄りながら福知山と広畑の写真を確認し始めた。
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