中川勝司

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 俺の言葉を聞いた彩香は途端に表情を曇らせて海苔を置いて立ち上がると、部屋の隅に置かれたカバンから一枚の紙切れを持って戻って来た。 「夕食の後に見せようと思ったんだけど」  彩香はそう言ってその紙きれを俺の顔の前に差し出した。その紙切れにはエコー写真が印刷されている。黒い胎嚢(たいのう)の中に枝豆のような形の白いものがある。  写真から目を逸らし、震え始めた手でエコー写真を彩香に突き返すと、「ちゃんと見て!」と彩香は声を荒げた。 「お、お前は本当にコレが莉緒だと思っているのか?」  彩香に目を合わせずにそう言葉を返すと、彩香は無表情で母子手帳を机の上に置く。 「もう、母子手帳までもらってきたのか……」 「違う。コレは”前の”莉緒の手帳。今度生まれてくる莉緒の手帳は、明日もらいに行く」  ”前の”という言葉を平然と口にしている彩香を恐ろしく思いながら莉緒の母子手帳に視線を落としていると、何枚も挟まれている紙切れの中から一枚のエコー写真を取り出して先程見せてきた写真の隣に並べた。
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