中川勝司

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「おい……右目どうしたんだ? 喧嘩でもしたのか?」  そう問い掛けると、凌空は話しかけるなと言った様子で「関係ないだろ」と呟き椅子に腰を下ろした。  中学卒業までは反抗期も無く素直な性格だった凌空だが、高校生になると抑えていたものが爆発したように荒れ始めた。荒れるといってもファッションや髪型が変わったりはしていない。家庭内暴力もない。ただ、心の中だけが別人のように冷たくなってしまったように感じる。  今思えば、照明の点いたリビングで凌空と顔を合わせるのも久しぶりな気がする。ここ最近、まともな会話をしてこなかった。彩香が寝室に閉じ籠ってからの二ヵ月は食費をテーブルに置いて家を出ていたし、俺がリビングにいる時は凌空も気をつかってほとんど下りて来なかった。  彩香が正常で無くなってしまった今、凌空の面倒を見るのは父である俺の務めだ。でも、今の俺にはそれをする心の余裕が無い。他人から見ると、俺は親として失格なのだろう。 「冷やした方がいいんじゃない?」  彩香がそう言って冷凍庫から保冷剤を取り出し、タオルを巻いて凌空に手渡す。凌空は「これくらい大丈夫だから」と言って首を振り、椅子に座って海苔を手に取り手巻き寿司を作り始めた。
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