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態度を改めろと怒鳴った方が凌空の為かもしれないが、今は彩香を正気に戻す方が先決だ。黙って椅子を引き、凌空と同じように無言で海苔を手に取る。
「あとでしっかり冷やすのよ。さぁ、私もしっかり栄養採らなきゃ」
彩香はそう言って冷蔵庫横のフックにエプロンを掛け、俺の隣に腰を下ろす。莉緒が生きていた頃と何も変わらない笑顔を俺と凌空に向けながら「美味しいでしょう? 今日のお刺身。私は食べられないから、たくさん食べてね」と告げた。
凌空はどう感じているのだろうか。俺と同じようにお母さんはおかしくなってしまったと思っているのだろうか。そもそも彩香は凌空に妊娠したことを告げたのだろうか。
二人を観察しながら味噌汁を飲んでいると、彩香はまた何かを思い出したような表情になり話を始めた。
「今日ね、お義母さんに電話したの。ずっと心配してくれていたから、もう大丈夫ですって言いたくて」
「おふくろに?」
「最初はすごく驚いていたけど、喜んでくれたわ。何はともあれ、私が元気になってくれて良かったって。莉緒の生まれ変わりだって話はなかなか信じてはくれなかったけどね。あなたと凌空は、信じてくれるわよね?」
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