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先程まで笑っていたのが嘘のように、彩香は無表情で箸を置き、俺の顔をジッと見つめている。
『信じられるわけないだろう』と叫び出しそうになるが、凌空の前で感情的になるのは避けたい。凌空はまるで聞こえていないと言わんばかりに箸を進めている。
「お前が元気になってくれたのは俺も嬉しい。でも、ちゃんと現実を受け止めて欲しい。莉緒はもう死んだ。莉緒が再び生まれてくることは、絶対に無い」
彩香は俺の目を見つめたまま言葉を返して来ない。反論の言葉を頭の中で整理しているのだろうか。俺は彩香が喋り始める前に話を続けることにした。俺の言葉にショックを受けて再び二階に引き籠るかもしれないが、現実逃避している今の彩香よりはマシだ。
「頼むから正気に戻って欲しい。お前は莉緒の葬儀が終わってからほとんど二階で過ごしていた。俺の事も遠ざけて、寝室に入ることも許さなかっただろう? 凌空の前で言うのもなんだが、ほとんど顔も合わせて来なかった俺達の間に子供が出来る事なんて無いんだよ!」
息継ぎすることなく言い切った時、凌空は茶碗を叩きつけるようにテーブルに置いて立ち上がる。
「くだらない」
凌空はまるで害虫を見るような目で俺達を見下ろしながらそう告げ、リビングから出て行こうとする。流石に頭にきた俺は凌空の肩を掴んで呼び止め、「もういっぺん言ってみろ」と無理やり振り返らせた。
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