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二ヵ月前、八歳になった翌日、莉緒はトラックに轢かれて死んだ。
数百メートル離れた俺の実家、莉緒にとってはお祖母ちゃんの家に自転車で向かう途中だった。仕事をしていた俺が病院へ駆け付けた時には、莉緒は既に冷たくなっていた。
莉緒が死んでからの記憶は途切れ途切れでしか覚えていない。ただ、朝から晩まで仕事をし、家に帰ると莉緒の姿を壁に映し出しては泣いていた。鮮明に覚えているのは、その行為が今も続いているからだろう。
いつの間にか自転車の練習をしている動画は終わり、別のものに切り替わっていた。うつ伏せに寝転び、足をぱたぱたさせながら絵を描いている莉緒の背中が見える。
折り曲げたり伸ばしたりを繰り返す莉緒の足に引き寄せられるようにソファから立ち上がる。壁の前で立ち止まり莉緒の足に触れるが、温もりの無い壁のざらついた感触だけが指先に返って来た。影絵となって壁に浮かび上がる自分の手が現実に引き戻す。
水のように流れはじめた涙をティッシュで拭き取り、再びソファに腰を下ろす。
枯れたと思った涙が再び流れだしたのは、唯一原型を留めていた莉緒の足裏に触れた時のことを思い出してしまったからだろう。あの氷のような冷たさは、今でも指がしっかりと記憶している。
消えろ。消えてくれ。
そう思いながら指を握っていると、二階から物音が聞こえて来た。
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