中川凌空

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 一ヵ月前に産婦人科へ行ったお母さんから妊娠したと聞かされた時は気でも触れたのかと思ったが、エコー写真と今の状態を見る限り、真実なのだろう。  性行為無しで妊娠することはない。僕が学校に行っている間に両親がそういった行為をしていたと想像するだけで吐き気がする。お母さんも父もそんな精神状態じゃないと思っていたが、実際は違ったのかもしれない。  莉緒が再び生まれてくるなんて非現実的な言葉をお母さんは毎日口にしているが、生まれたらすぐに莉緒じゃないことに気づくだろう。どれだけ莉緒に姿形が似ている子に育っても、まったく同じ心を持った人間など絶対に存在しないのだから。一番莉緒のそばにいたお母さんが、それに気づかないはずがない。  ただ、お母さんが明るくなってくれた事だけはありがたい。莉緒の通夜と葬儀を終えた後のお母さんは、いつ自殺してもおかしくない精神状態だった。それだけを考えると、幻想に憑りつかれたままそっとしておくのが良さそうな気もする。  制服に着替えてリビングに入ると、青白い顔のお母さんが出迎えた。
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