中川凌空

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 田崎と睨み合っている間にチャイムは鳴り、日本史の老教師が入って来る。田崎は舌打ちをしながら自分の席へ戻っていった。まだ終わっていないぞという怪しい笑みを浮かべながら。  机から日本史の教科書を取り出す。中心が少し膨らんでいる。ページをめくっていくと、押し花でも作るように潰れたゴキブリが挟まっていた。  田崎の家はゴキブリが溢れているのだろうか。さぞ汚い家なのだろう。夜な夜なこの悪戯の為にゴキブリを採集している田崎の姿を想像した瞬間、思わず噴き出してしまった。 「プッ……ハハハ……ハハハハ」  僕が笑い始めると、クラスメイトは怯えたような表情で見つめてきた。僕が叫んで教科書を捨てるとでも思っていたのだろうか。教科書が少し膨らんでいる時点で詰めが甘いと指摘する奴は周りにいなかったのだろうか。何もかもが、低レベルだ。  僕は教科書を振ってゴキブリを床に落とし、カバンから取り出したティッシュでくるんでゴミ箱に捨てに行った。
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