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「本当に、それしか方法はないの?」
『ない』
廻世受胎がどういうものかなんて今聞いたばかりの私には分からない。凌空の様子を見る限り、勝司が嘘を言っているとも思えない。
勝司は既に死を決意している。私が勝司でも、きっとそうするだろう。でも、お腹の子は関係ない。私の身体に宿った命が一瞬で消えるなんてあって良いはずがない。
「今も動いているんだよ? あと一ヵ月で、莉緒に会えたのに……。あなたは莉緒が蘇ることより、凌空の方が……」
私がそう言って嗚咽した時、頭の中に莉緒の声が響いた。
『ママ、それは私じゃないよ。私は、ママのお腹にいない。ママの、心にいる。だから、お兄ちゃんを助けて……』
幻聴ではない。莉緒の声で、喋り方で、ハッキリとそう伝えてきた。その途端、胎児が怒り狂ったかのように胎動が激しくなる。まるで早くここから出せと訴えているようだ。
『彩香?』
電話口で待っていた勝司の呼びかけが耳に届いた時、私は決意する。
「凌空を……助けたい」
『良かった……。凌空は今、市民病院に居るはずだ。今にも倒れそうだったから救急車を呼んでおいた。行ってやってくれ』
それを聞いた私はすぐに家を出る準備をし、病院へ向かった。
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