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翌朝、ベッドの上で目を覚ました凌空は子供に戻ったように私に甘えてきた。
「ずっとそばに居て欲しい」
その言葉を聞いた時、凌空の精神が限界に近づいていた事に気づく。私は凌空の手をギュッと握り、何度も頷いた。
そして三月十八日。勝司と胎児を失う日がやってきた。凌空には九ヵ月健診に一緒に来て欲しいなんて口にしたが、それが叶わない事は分かっている。凌空に怪しまれないよう、普段通りの私でいなければいけない。
いつにも増して私に優しい口調の凌空は、一緒に散歩に出掛けようと誘ってきた。私の歩幅が短くなると凌空も短くなり、止まると凌空も止まる。このお腹の中に居る胎児のせいで死ぬのに、凌空はずっと私のお腹を気にかけていた。
凌空の言葉ひとつひとつに優しさが詰まっている。今まで気づかなかったが、凌空は誰よりも家族のことを考えてくれていた。
明日には自分の命が無いと思っている凌空に、私は自信をもってこう告げる。
「あなたは明日で死んだりしません。お母さんが保証する」
私の言葉を聞いた凌空は目を細めて笑い、「生きてさえいれば幸せって感じることが出来るんだね」と口にした。
生きてさえいれば。頭の中に勝司の顔が浮かんで涙が零れそうになるが、グッと堪えて凌空の手を握った。
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