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数分後、浴室から出た私は服を着てリビングへ行き、勝司がよく見ていた莉緒の動画をプロジェクターで壁に映した。
照明を暗くしてソファに腰を下ろす。時計を見ると、深夜0時を過ぎていた。
何も考えないようにしようと思っても、勝司と凌空の顔が頭に浮かんでは消えていく。
壁に映し出された何気ない日常。そこには、幸せが溢れていた。
眠たい表情で歯磨きをしている私と莉緒。全く同じ顔だと大笑いする凌空に勝司。何で撮影していたのかも分からない日常の一コマが、あまりにもキラキラと輝いて見えた。
胎児は今にもお腹を突き破ってきそうな程に激しい胎動を繰り返している。きっと自分の命が今日で終わってしまうことに気づき、焦っているのだろう。
「あなたは莉緒じゃない……けど、あなたは私に生きる希望をくれた。あなたがお腹に宿らなければ、きっと私は半年以上前に死んでいた」
そう言ってお腹を撫でた瞬間、臍の上が熱くなる。この子が宿った時と全く同じ感覚だ。痛みも何も感じない。ただ、ひとつの命が消えていくのが分かる。まるで風船が萎むように、時間をかけてお腹は小さくなっていった。
「さようなら」
私がそう言ってお腹を撫でた時、既に胎動はしなくなっていた。
お腹が萎んでいくのに合わせ、睡魔が襲って来る。このまま目を閉じれば一生目が覚めないのではないかと思う程の強い眠気だ。
私はソファで気絶するように倒れ、そのまま深い眠りに入っていく。
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