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「…………きたの」
久しぶりに声を出したせいか、彩香の声は酷く掠れていてほとんど聞き取れない。
手渡されたモノに視線を落とす。そこには妊娠検査薬があった。
「なんだよ、コレ」
俺がそう言って妊娠検査薬を彩香の手に戻すと、彩香は再び掠れた声で呟く。
「できたの……」
「できたって、何が?」
彩香の言葉と妊娠検査薬が結びつかない。目を見開いて固まっていると、妊娠検査薬の中心に浮き出ている赤いラインを指差し、彩香は声を震わせる。
「莉緒が帰ってくるの。莉緒がまた、私達の家に産まれてくる」
赤く腫らした目に涙を浮かべ、彩香は俺の身体を抱きしめた。久しぶりに感じる彩香の温もり。嬉しいはずなのに、抱きしめられる力が強くなれば強くなる程、俺の背筋は冷たくなっていく。
性行為をしなければ妊娠はしない。そんな当たり前のこと、中学生でも理解できる話だ。
もし本当に妊娠をしているのなら、彩香のお腹に宿っているのは俺の子供ではない。ましてや莉緒なんかでは決して無い。
そんな俺の思いを無視するように、彩香は大粒の涙を流して喜んでいる。「莉緒に会える」という理解出来ない言葉を繰り返しながら。
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