妊 娠

4/4
前へ
/288ページ
次へ
「…………きたの」  久しぶりに声を出したせいか、彩香の声は酷く掠れていてほとんど聞き取れない。  手渡されたモノに視線を落とす。そこには妊娠検査薬があった。 「なんだよ、コレ」  俺がそう言って妊娠検査薬を彩香の手に戻すと、彩香は再び掠れた声で呟く。 「できたの……」 「できたって、何が?」  彩香の言葉と妊娠検査薬が結びつかない。目を見開いて固まっていると、妊娠検査薬の中心に浮き出ている赤いラインを指差し、彩香は声を震わせる。 「莉緒が帰ってくるの。莉緒がまた、私達の家に産まれてくる」  赤く腫らした目に涙を浮かべ、彩香は俺の身体を抱きしめた。久しぶりに感じる彩香の温もり。嬉しいはずなのに、抱きしめられる力が強くなれば強くなる程、俺の背筋は冷たくなっていく。  性行為をしなければ妊娠はしない。そんな当たり前のこと、中学生でも理解できる話だ。  もし本当に妊娠をしているのなら、彩香のお腹に宿っているのは俺の子供ではない。ましてや莉緒なんかでは決して無い。  そんな俺の思いを無視するように、彩香は大粒の涙を流して喜んでいる。「莉緒に会える」という理解出来ない言葉を繰り返しながら。 d00f7ae1-d0f3-41e5-b7e6-2a708b93e09d
/288ページ

最初のコメントを投稿しよう!

528人が本棚に入れています
本棚に追加