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莉緒の遺体を確認しても、真っ白になった頭に色が戻ることは無かった。ただ、狭い部屋で彩香と共に狂ったように泣き叫んだ記憶は今も残っている。
記憶が曖昧で、どうやって通夜と葬儀を執り行ったのか覚えていない。まるで、バラバラに散らばったパズルを見ているような感覚だった。
仕事に復帰した時、上司から精神科を受診した方が良いと勧められて向かったものの、白い布を掛けられた莉緒の姿が頭を過り、病院という空間に足を踏み入れることが出来なかった。今の俺には、時間の経過に癒しを求めるという選択肢しかないのだ。
「先輩、大丈夫ですか?」
目の前に後輩の顔がスライドしてくる。助手席の扉が開いた音も聞こえないくらいに放心していたと思うと少し怖くなる。
十歳年下の後輩、内藤海斗は、コンビニで買ってきたエナジードリンクとレシートに包まれた小銭を手渡してきた。
「珈琲の方が良かったっすか? 少しでも元気出たらと思ってコレにしたんすけど……」
「ありがとう。すまないな、いつも気を使わせてしまって……」
俺はそう言って受け取った小銭を財布にしまい、エナジードリンクの蓋を開いて口に運ぶ。
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