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妊 娠
リビングで青白い天井を見上げてどれだけの時間が経過しただろう。エアコンから吹き出されている冷たい風で我に返る。
視線を下げて壁を見ると、裸足でブランコに乗る娘、莉緒の笑顔があった。
『パパ、もっと押して』
右下に見え隠れする俺の手は四ヵ月前のものだ。莉緒の背中を押しては前に回り込み、足の裏をくすぐろうとしている。
『やめてよ、パパ! くすぐったい!』
『ハハ、砂を取るだけだって』
俺がそう言った直後、莉緒の笑顔は消えて只の壁に戻った。
テーブルに置かれたプロジェクターの起動音だけが虚しく響いている。動画の再生が終わると陰鬱な気分になるのは何日経過しても変わらない。
DVDレコーダーのリモコンを手に取り、再生ボタンを押した。真っ青だった壁は再び色づき、自転車の練習をする莉緒の姿が映し出された。
「こんな自転車……買わなければ莉緒は……」
念仏を唱えるように一人で喋りながらプロジェクターの横に置かれた缶ビールを飲み干し、目頭を指で摘まんだ。この動画を見る度、籠が潰れたピンク色の自転車と莉緒の無残な姿が瞼の裏に蘇る。
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