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真っ昼間とあって京橋駅前の繁華街に人通りは少なかった。居酒屋なんかはどこもまだシャッターを下ろしている。それでも静寂とは程遠いのは、近くに国道一号線が走っていること、パチンコ屋の扉が頻繁に開閉しているせいだ。いま思えば、この街には酒だけじゃなく様々な匂いが混沌としている。私が酒に親しみを覚えていたというのは嘘だったかもしれない。一つ特徴的なものを具体例としてあげただけで、この街の匂いは身体にすっかり染み付いて取れなくなってしまっているのだ。
摩耶が入っていったのは、JR京橋の北口を出てすぐ、自由の女神像がちょこんと鎮座しているビルを右に曲がったところにある商店街の入り口、グランシャトーというレジャービルの斜向いに建つ古めかしい雑居ビルだった。入り口横にはピンクの看板が何枚も張り出されていて、制服やバニーガール姿の女性の写真と共に、三十分いくらだといういかがわしい謳い文句が並んでいる。
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