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「おい、次はちゃーんと見てやるからさ、さっきのやんごとない踊り、もう一度ぱぱっとやっちゃってくれない?」
突然カメラを構えられた猫は、驚いたように目を見開いた。
(ちょっ……! だめです。取材・撮影は勘弁してください)
慌てたように飛び起きると、背を丸め、いかにも猫的な警戒ポーズを取る。
(我々一族は、人間にその存在を知られるわけにはいかないんです)
「はぁ? 何だよ、今更勿体ぶりやがって」
お預けを食らったような気分になって、おれは思わず子供みたいに口を尖らせた。
「先にがっつり化け猫アピールしてきたのはそっちだろうが」
(そこはその、やむをえない事情があってですね……)
憂いを含んだトーンで小さく鼻を鳴らすと、猫は居住まいを正し、まっすぐな目でこちらを見上げた。
(不思議雑誌『月刊ムーン』都市伝説コラム担当記者、成田穣二。血圧と尿酸値が高く、医者から再三生活習慣の改善を求められている三十六歳男性とは、あなたのことですね?)
「えっ、何で知ってんの? 気持ち悪っ!」
というか、血圧云々のくだりは完全に余計なお世話だ。
(私は留雄。あなたとの間にある取引を提案するためにやって参りました)
トメオと名乗る猫の大きな瞳が、きらりと光った。
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