ありがとうの毎日を

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 卯月サヤは成績優秀にしてスポーツ万能、おまけに学年で一番の美人とくれば、教室内のスクールカーストのトップに立つのは当然であった。  トップがいるということは2番手、3番手のクラスメートも当然いるわけで、特に3番手の幹アヤコの場合、トップのサヤをいつかどこかで追い落としてやろうって虎視眈々と目を光らせていた。そして、ついにアヤコにその機会がやってきたのだ。  アヤコは正面に立つサヤを薄笑いで見据えて、指先を教室の端っこの席に座る赤木コウタに向けた。 「あたし噂に聞いちゃったんだけどぉ、卯月さんってぇ、あの赤木と付き合っていたんだって?」  サヤは、周囲には内緒にしていた赤木コウタとの恋愛関係を突然、嫌味なクラスメートに暴露されてしまった。それでも、サヤの表情は、クラスのスクールカーストのトップに立つ者のそれであった。  上から目線かとアヤコはますます嫉妬と劣等感のドス黒い心の炎を燃え上がらせた。  アヤコはさらに毒づいた。 「みんな騙されてたよー。クラスのカーストのトップの正体があれ――インキャの彼女だったんだもん」  サヤの目の前でキャンキャンと喚くアヤコ。  サヤはコウタの方へ黙って顔を向けた。  サヤのその態度ときたら……アヤコは自分が無視されたのだと思った。  アヤコはサヤへのヘイトスピーチの度合いを高めた。 「キャハハハッ。バレちゃって困ったあ? あんなインキャを好きになったアンタっておっかしー」  それでもサヤはアヤコの方には視線を戻さなかった。 「無視すんなよ! いい加減、あれが気持ち悪いって言ってんだよ!」  アヤコは近くの席の上に置かれていた教科書を掴み、それを赤木コウタに投げつけた。  あっ――!  アヤコのこの突然の蛮行に、周囲にいたクラスメートたちははっと息を呑んだ。  これにはさすがのサヤも驚き、皆と同じように息を呑んだ。  しかし、投げつけられた教科書は、コウタの体を突き抜け、教室の壁にバタンと大きな音を立てて当たったのだ。  その光景を見て、サヤは涙を流した。  赤木コウタとは付き合っていた。  過去形だ。  別れたわけではない。  コウタは――もう、この世には、いないのだ。  あの席に座っているのはコウタの幽霊だった。
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