vol.2

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全部、勘違いだった。バカ。 「ちょっと顔洗ってくる」 メイクを落とすと、泣きはらした目の素っぴんで、彼氏の前に座ることとなってしまった。 「せっかくメイク頑張ったのにな」って言うと 「俺、紗香はその方が好き」 って言われた。 「あ、化粧した顔も可愛いけど」と、すぐに付け加えた。え、こんなこと言う人だったっけ!? 顔が熱くなってくる。 …………。 ち、沈黙がつらい。 「あ、そうだ。乾杯しよ、乾杯。コーヒー入れるね。ケーキあるし」 さっと立ち上がってコーヒーの準備をする。コーヒーで乾杯って、何言ってるんだろう。付き合いの長い彼氏だっていうのに、いたたまれなくて、恥ずかしい。インスタントコーヒーなので湯を注ぐだけ。ホットプレートをどけて、目の前にケーキを置いた。 “1”と、“9”の並んだろうそくに火をつけると電気を消した。 「はっぴばーすでぃーとーぅゆー」 一人で手拍子して、独唱する。 ろうそくの火だけの暗闇で爆笑するふっちーはなかなか火を消してくれなかった。 「おま、おま、音痴すぎんだろ! カラオケでバイトしてんのに」 カラオケでバイトしてたら上手くなる訳じゃないじゃん。ふっちーヒーヒー言ってるし。だけど、さっきの茶番も重なって、私もだんだんおかしくなってきた。 「あはははは! おめでとう、ふっちー! 消して、消して 」 ふっと、吐息の後に、部屋は暗闇と静寂に包まれた。
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