vol.3

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縁というのは、人から編み目状に広がっているのだろうか、それとも放射状に広がっているのだろうか。たまに、そんなことを考えてみる。 例えば、どんな出会いにだって意味があるとしたら……。これも縁なのだろうか。 ──かつて目指したゴールに、今の俺はいた。公務員試験に合格し、就任した仕事にも慣れ、人に教える立場にもなり、枠内のやりがいに穏やかな満足を得る。小さな波しか立たない単調な毎日だった。 不満があったわけじゃない。ただ少し、羨ましかっただけ。 例えば俺が、このゴールを逃していたとしたら、ここにいる奴を羨んでいたはずだから。 無い物ねだりだな。そう思って自分の欲深さに苦笑いした。 結局、俺は……退屈なのだ。ゴールに着いた後は、ずっと横這いにこの生活が続き、仕事外に喜びを見いだすしかないのだ。否、それこそが理想の生活だろう。 そんな時に再会した縁だった。手に入らない縁ならなぜ、出会わせたのだろう。 10年ぶりにも関わらず、躊躇うことなく声をかけたのは、そこにいたのが今泉和奏だったからだ。今泉とは、高校で1年間だけ同じクラスになったことがある。いいなぁって思った時にはクラスが変わって、しばらくしたら芳川と並んで歩くところを見かけるようになった。 へえ、そうなんだ。 ちょっと遅かった。だけど、前のめりになるほどでも無かった。そんな恋にもならない感情だった。
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