vol.3

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この年になって思うのは、ちょっと出遅れると、手に入れられるものが少なくなるってこと。 “いいなぁ”って、思える人は貴重だってこと、あの頃はわからなかった。 今さらハラハラした恋も、駆け引きしなきゃならない恋もしたくはない。落ち着いた恋愛をしたい。そろそろ家庭を持ちたい。そう思っていた。 それでいえば、昔からの知り合いは安心感がある。進展も早いだろう。それを含めての“いいなぁ”だったのかもしれない。 話の糸口、それと今泉が今フリーなのかを探るのに出した、芳川の名前に、今泉がわかりやすく反応した。 「いや、この前ね、3年生の時の同窓会があって、その時に会った。ほんと、ついこの前で……」 と、真っ赤になって言い訳のような説明を始めた。今から芳川の家に行くと、そう言った。 しばらくしてすぐに戻って来た今泉の背中を押す。柴田のように、わざわざ邪魔をしたいわけでもない。ただ、こうやって偶然出会った縁が何のためか知りたくもあった。期待したのだ。ここで偶然出会う縁は、先に繋がっているんじゃないかと。もしかして、芳川じゃなくて、俺の方に……。 だけど、どこかでわかっていた。きっと、そうじゃない。 『ほんと、つい、この前』 芳川と今泉は再会した。また少し、俺は出遅れたのだ。きっと、柴田と同じように。
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