vol.3

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いいなあ。 帰り道、未練たらしくそんな事を思う。今泉とそっちの縁があった芳川が素直に羨ましかった。 芳川の身なりはサラリーマンでは出来ないような自由さがあった。自信に充ち溢れていた。(ように見えた)途端に色んなことに縛られて生きている自分がつまらなく感じた。 所詮、安定という枠の中でしか生きられない。真逆にいる芳川を見ると、今泉の事も手伝って敗北感に襲われた。 なぁに、ただの無い物ねだりだ。俺だって……!何度も自分にそう言い聞かせた。 あんなところでばったり会う、芳川との縁は何なんだろう。劣等感を抱かせるためだろうか。今泉への未練をさっさと裁ち切らせるためだろうか。 いや、そんな未練を持つほど惚れてもいない。だけど、芳川と会った意味を何かしら理由付けしないとやってられないような、そんな夜だった。 「いいなあ。俺も彼女ほしー」 そう口に出すと、この重苦しい気持ちが大したことないように感じられはしないか。 そう思ったのに、そのタイミングで柴田から返事を急かすメッセージが届き、余計に滅入った。 「彼女は欲しいけど、お前じゃねえわ」 悪い奴ではないんだろうけどな……。だけど一つ、試してみようではないか。 『俺には、んだ。ごめん』 柴田にこうメッセージを送った。
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