vol.3

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「まあね。俺も、ほら、いい男だし?」 芳川がわざとらしいキメポーズをしたもので、こちらも目を瞑って肩をすくめて見せた。 「はは、や、でも、俺はこんな仕事だしなあ……」 「……こんな仕事、って?」 「うん。毎月決まった金額が必ず入ってくるわけじゃないってこと。従業員もいるから何とかしなきゃならないし。休みも少ないし夜も遅い。結婚相手の職業としては厳しい目を向けられがち」 と、最後、語尾に自虐的な笑いを含ませた。 「……え?」 「や、今のは無し! ちょっとまあ、そんなことを思ったりするってこと」 「ふっ」 芳川もかよ。そう思うと、つい笑ってしまった。 「え?」 「や、何もない。大人になったなあって思っただけだ」 「……まあ、な」 「結婚、考えてるのか? 今泉と」 「そうだな」 「んじゃあ、結婚相手として厳しい目を今泉に向けられてんのか?」 「まさか。和奏は何も。うちの従業員が、公務員がいい! って、言ってたよ。落合くん!」 「あー、そう。そんなモテないけどなあ。つか、出会いがない」 俺の劣等感は芳川の一言ですっと消えた。俺は俺で、芳川は芳川で、ちゃんと頑張ってる。昔、目指した場所にいて、手に入れたものを人と比べても仕方がない。 気持ちが学生時代に戻って、酒が進む。『和奏』って、呼んだな?とは思ったけど。
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