vol.3

19/44
前へ
/192ページ
次へ
──土曜日。 モナちゃんとの約束までに芳川と会う予定だった。と言っても、うまくやれなくて『ごめん』って言うだけだったから芳川の仕事場に少し顔を出す予定だった。 ── 「おお、すげ」 芳川の仕事場、思ったよりすごくてキョロキョロしてしまう。 「はは。そのへん腰かけて」 そう言われ、芳川に時間がないこともあって、早々に説明した。 「あー……」 と、芳川が察してくれた。 「悪い子じゃないんだけど。系統が違うというか。若すぎる。俺は結婚とか見据えた付き合いをしたいし」 「うん。まあ、こういうのは仕方がないよね」 「悪い。今日会ってこれっきりにするつも……」 芳川が左手でストップのジェスチャーをしたので、そこで言葉を止めた。誰かが隣の部屋に入って来たのか話し声が聞こえた。仕事か。それなら帰ろうと、立ち上がった。俺の気持ちは芳川に伝えたし、邪魔になってはいけない。 「また、飲みに行こうぜ」と、芳川に言った。 「ああ、そうだな」 芳川も立ち上がりかけた時だった。その声が、モナちゃんのだと気がついたのは。 「芹加さん、もう少し大人っぽく見えるにはどうしたらいいと思います?」 どうやら、先輩に意見を聞いてるみたいだった。そうか、モナちゃんも今日は仕事だったのか。 「わざわざそれ聞きに来たの?」 「だって、自信なくて」 「モナ、デートなんですよ、今から。この前芳川さんが紹介してくれた人」 芳川と顔を見合せ、ここにいるべきか帰るべきか、二人で固まってしまった。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1118人が本棚に入れています
本棚に追加