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──土曜日。
モナちゃんとの約束までに芳川と会う予定だった。と言っても、うまくやれなくて『ごめん』って言うだけだったから芳川の仕事場に少し顔を出す予定だった。
──
「おお、すげ」
芳川の仕事場、思ったよりすごくてキョロキョロしてしまう。
「はは。そのへん腰かけて」
そう言われ、芳川に時間がないこともあって、早々に説明した。
「あー……」
と、芳川が察してくれた。
「悪い子じゃないんだけど。系統が違うというか。若すぎる。俺は結婚とか見据えた付き合いをしたいし」
「うん。まあ、こういうのは仕方がないよね」
「悪い。今日会ってこれっきりにするつも……」
芳川が左手でストップのジェスチャーをしたので、そこで言葉を止めた。誰かが隣の部屋に入って来たのか話し声が聞こえた。仕事か。それなら帰ろうと、立ち上がった。俺の気持ちは芳川に伝えたし、邪魔になってはいけない。
「また、飲みに行こうぜ」と、芳川に言った。
「ああ、そうだな」
芳川も立ち上がりかけた時だった。その声が、モナちゃんのだと気がついたのは。
「芹加さん、もう少し大人っぽく見えるにはどうしたらいいと思います?」
どうやら、先輩に意見を聞いてるみたいだった。そうか、モナちゃんも今日は仕事だったのか。
「わざわざそれ聞きに来たの?」
「だって、自信なくて」
「モナ、デートなんですよ、今から。この前芳川さんが紹介してくれた人」
芳川と顔を見合せ、ここにいるべきか帰るべきか、二人で固まってしまった。
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