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「何、格好よかったの?」
「あ、はい。格好良かったのは格好良かったです」
「……何その微妙な……」
「見た目、じゃなくて。見た目も良かったですけど、何か話す声のトーンとか、タイミングとか、正直なところとか、“いいなあ”って思ってしまって……」
「へぇ、向こうは? どんな感じだったの?」
「ぜーんぜん。初っぱなから早く帰りたそうでした」
芳川が眉間に皺を寄せて俺に非難の目を向けた。そんなつもりはない、うまくやったつもりだと俺はぶんぶん首を横に振った。
「“ナシ”っていうのを顔に出さないように優しくしてくれました。わかってるんだけど、あと1回だけ、会いたいなあって。だから少しでも……大人っぽく見えるように」
「……健気ねえ」
そこからわいわいとモナちゃんじゃない二人の女性がアドバイスしているのが聞こえた。
「健気ねえ」さっきの女性を真似て、芳川が俺にだけ聞こえるように言った。ただ俺は力なく俯くしかなかった。ものすごい恥ずかしい。
「若いけど、結婚とかそういうのは一旦おいておいて、もうちょっとだけ考えてやれない? もちろん、無理強いはしないけど」
今度は芳川が眉を下げた。
「うん、じゃあ、もう少しだけ」
俺はそう言うと、なるべく足音をさせないように芳川の店から出ていった。
モナちゃんとの待ち合わせまであと2時間もあった。休み、なのに、アドバイスを求めて職場に来たのか。自分もプロなのに?
つか、全部バレバレなのにそつなくやり過ごしてるつもりだった自分が恥ずかしかった。 あー、もう!バカか!
だけど、ほんの少しだけ、モナちゃんどんなメイクで来んのかなって楽しみにしている自分がいた。
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