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『はい……』
「芳川! 俺、俺、俺」
『ああ、うん。まだモナちゃんと一緒?』
「いや、さっき解散した」
『あー、随分早いな。まあ、こういうのは仕方がないし……』
「付き合おうと思う」
『えええええ!?』
芳川の声が耳に痛い。電話の向こうで『芳川さん、うるさい』って、注意されてる。
「悪い。まだ職場か」
『うん。もう最後の客は帰ったから大丈夫だ。びっくりした。いいのか?』
「ど、どう思う? いいのかな?」
質問返しをすると、芳川がははっと笑った。
『いいと思うよ、俺は』
「そっか。いいよな? いいよな?」
『うん。いいと思う』
芳川は電話の向こうで笑ってるみたいだった。それと、電話の向こうで、聞き覚えのある声が聞こえた。『ミナミちゃん、芹香さーん、どうしよう!』って。
「あ、」
『あ、』
芳川と声が被った。今度は聞かないことにしよう。
「芳川、ありがとうな。また飲みに行こう」
『や、こちらこそ、よろしく』
結局、顔は緩んだけど、何度も「いいよな? いいよな?」って自問自答しながら帰った。
“ナシ”だって思ってたのに。絆されたのか。向こうの純粋さに感染したみたいに、初めて彼女が出来たみたいな気持ちだった。
ゆっくり行こう。向こうは初めてなわけだし。俺が初めてかあ。プレッシャーの中に光栄に思う気持ちもあって、胸の中がこそばい。
『今日は楽しかったです』と届いたモナちゃんからのメッセージに今度はちゃんと
『俺も』と、すぐに返信した。
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