vol.3

27/44
前へ
/192ページ
次へ
『はい……』 「芳川! 俺、俺、俺」 『ああ、うん。まだモナちゃんと一緒?』 「いや、さっき解散した」 『あー、随分早いな。まあ、こういうのは仕方がないし……』 「付き合おうと思う」 『えええええ!?』 芳川の声が耳に痛い。電話の向こうで『芳川さん、うるさい』って、注意されてる。 「悪い。まだ職場か」 『うん。もう最後の客は帰ったから大丈夫だ。びっくりした。いいのか?』 「ど、どう思う? いいのかな?」 質問返しをすると、芳川がははっと笑った。 『いいと思うよ、俺は』 「そっか。いいよな? いいよな?」 『うん。いいと思う』 芳川は電話の向こうで笑ってるみたいだった。それと、電話の向こうで、聞き覚えのある声が聞こえた。『ミナミちゃん、芹香さーん、どうしよう!』って。 「あ、」 『あ、』 芳川と声が被った。今度は聞かないことにしよう。 「芳川、ありがとうな。また飲みに行こう」 『や、こちらこそ、よろしく』 結局、顔は緩んだけど、何度も「いいよな? いいよな?」って自問自答しながら帰った。 “ナシ”だって思ってたのに。絆されたのか。向こうの純粋さに感染したみたいに、初めて彼女が出来たみたいな気持ちだった。 ゆっくり行こう。向こうは初めてなわけだし。俺が初めてかあ。プレッシャーの中に光栄に思う気持ちもあって、胸の中がこそばい。 『今日は楽しかったです』と届いたモナちゃんからのメッセージに今度はちゃんと 『俺も』と、すぐに返信した。
/192ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1118人が本棚に入れています
本棚に追加