vol.3

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単調な毎日に、大きくあった変化。気持ちが浮き立つような出来事だった。 名前と職業と連絡先だけしか知らない。この前まで全くの他人だった人が恋人になる。不思議だと思いながらも、これから一つ一つ知っていくのが楽しみだった。 何が好きなんだろう。どんなことに興味があるんだろう。そんなことを考えながら、次に二人で会う時の事を計画する。 「楽しいもんだな」 思わず口に出てしまった。次に付き合うなら、物事を考える価値観が同じくらいの年の人がいいと思ってたのに、俺は自分で意外に思うほど、世話を焼きたい人間だったのかも。頼られるのは悪い気がしなかった。 付き合いたての一番楽しい時期なのだが、お互いの休日が合わず一緒に食事をとるくらい関係が1ヶ月ほど続いていた。 いつものように待ち合わせをして、食事をする。会って最初の30分くらいはモナちゃんがガチガチに緊張して、それが俺にもうつる。適度に解れて来たくらいに談笑する。店を出ると終電ギリギリくらいになるのでそこで解散をする。それがいつものパターンだった。 この日は談笑ではなく、モナちゃんは俺に改まって「いいですか?」と、話を切り出した。 「いいよ、どうかした?」 「私、伸之さんに好きになって貰えるように頑張るって言ったのに、何も出来なくてごめんなさい」 モナちゃんの指先は、微かに震えていた。
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